「おい、居たか!?」
「いえ、何処にもいません!」
案の定それから暫くして帝国兵が団体でやってきた、だが馬車は残っているものの中はものけの空。荷物も無ければ人の影すらない。そして馬の姿も消えていた。
「これだけの人数を集めても見つけられんのか! なんとしてでも探し出せ!」
苛立ちを隠せずに吠える男性が一人、赤いエルメアを纏っているところから中尉と思われる。その表情からは苛立ちと同時に焦りも見受けられる。口調が荒くなり部下達を走らせ続けている。
「見つけろ! なんとしてでも見つけるんだ! でないと、でないと俺が――」
「――貴方が、どうしたのですか?」
中尉の後ろから静かで、とてもきれいな声が聞こえた。背中を一度振るわせて即座に振り返り敬礼をする。中尉の顔からはおびただしい量の汗が吹き出し、口をパクパクとさせながら言葉にならない事を話始める。
「しょしょしょ、少佐殿! イマイマイマ今しばらくお待ちくだだださい!」
真っ白なエルメアだった、帽子を深く被り眼鏡をかける女性が一人。中尉の後ろに音もなく現れ立っていた。周りの兵隊達も一度動きを止めて少佐と呼ばれる女性に敬礼をする。だがその空気は異質と言うより異常であった。ピリッと張り詰める空気と怯える兵士達。それはこの少佐に向けられているものだと誰の目に見ても分かるだろう。
「アンタイル中尉、私達遊撃師団が本国から受けている任務は何でしたか?」
細い目だった。
まるで目が開いていないと錯覚するほど目の細い顔でアンタイルへと質問をする。もう一度背中をびくつかせ唾を飲み込んでからアンタイルは口を開く。