出発して二時間、時刻はまもなく正午を迎えるだろう。日差しが彼等の真上まで登り容赦なく照らしている。気温も上昇を続け昨日記録した過去最高気温を上回っただろう、馬車の中で揺られている彼等の額にも汗がにじんでいる。一人を除いて。
 言うまでもないレイである、一人だけ法術で体温を調節し涼しい顔をしている。それを憎たらしく見つめるのがアデルだ。隣で帽子で仰いでいるガズルとシフトパーソルの整備をするギズーも暑そうにしているがアデルほどではなかった。

「レイ……こっちにも冷気送ってくれよ」

 しびれを切らしたアデルがついにぼやいた。

「そんなこと言ったって結構展開してるよ? 座る場所が悪いんじゃないの?」

 アデルが座っている位置は馬車の中でも先頭、残りはレイを中心に座っている為均等に冷気が放出されているがアデルにだけその冷気が届いていない状況である。正確には冷気が出てる所はアデルからしたら風下に当たる位置なのだ。決してレイが自分だけ涼しくなれば良いやと思っている訳はない、どちらかと言えば気遣ってエーテルをコントロールしている位であった。

「じゃぁ誰か俺と場所交代してくれよ、ここ地味に日差しも当たって暑いんだよっ!」
「そんなところに座るテメェが悪い」

 バッサリとギズーが切り捨てた。
 ガックリと肩を落としたアデルは右手に握る水筒を口元に持って行くと中に入っている水を一気に飲み干した。日光に当たっていたせいか程よく温い。

「ぬるっ! 踏んだり蹴ったりだよ畜生!」

 口元を拭って少しだけ座る位置を変更する、ちょうど日陰の中に入るスペースを見つけてはそこへと移動し、馬車が方向転換する度に日光を避ける様に動き始めた。

「ところで、ちょっと良いかしら?」