「面白くないってお前なぁ、あきらめろ。レイは元々あんな性格だし今更変わらねぇよ」

 アデルの言うとおり、レイ自身は少しだけ自分の性格が変わったと思っているようだがそれは間違いである。共に過ごしてきたアデルには分かる、レイの優しい心と他人を思いやる気持ちを。
 だがそれは時として厄介ごとに巻き込まれる、ギズーが懸念しているのはまさにそれだろう。

「良いかアデル、お前らはどうか知らねぇが俺はまだ認めてねぇからなっ」
「その言い方だと俺まで認めてるように聞こえるぞ?」

 アデルのバックパックを背中に回してそれに寄りかかりながらあくびをしているガズルが反応した、予想外の反応にアデルがまた困惑し始める。

「お前まで何言ってんだよ」
「別に気に入らねぇとか認めてるとかそういう話じゃないけど、ウマが合わないだよあの貧乳とは」
「あー……そういえばずっと突っかかってるなお前ら」

 単純に買い言葉に売り言葉じゃないのかとアデルは野暮なことを言おうとして直ぐにそれを引っ込めた。ガズルの性格からすればそれを言えばきっと馬車内でまた互いに罵り合う言葉の戦争が始まるだろうと直感していた。いや、きっと始まるだろうとこの時点で嫌な予感が脳裏に浮かび、ガズルと少しだけ距離を取った。またミトが物を投げてきた時に巻き添えを食らうのは隣に居るアデル本人だからである。

「ところでよ、いくら馬車だからってどのくらいで到着するんだ? あまり長い事乗ってると腰痛そうだし嫌だぞ俺は」

 帽子を取って羽飾りの位置を治して被りなおす。徒歩で丸二日の距離を馬車でどの程度で付くのか疑問に思ったアデルがぽつりと呟き即座にガズルとギズーが首を傾げる。

「それぐらい計算できねぇのか?」「それぐらい計算できねぇのか?」

 二人同時に同じ言葉を発した。