半年前と言えばつい最近のことにも思えるが、それはその人によっての感じ方の尺度でいくらかは変化するものだと思う。レイ・フォワードからすれば「まだ」半年ではあるが、親友のアデル・ロードからすれば「もう」半年なのだ。
 格別思い入れがあるのはレイ・フォワード本人であるのは言うまでもない。それでも短い時間ではあるが共に行動した彼等からしても仲間であり友達であった。それだけは間違いないだろう。

 アジトから山頂まで通常であれば一時間掛かるかどうかの道のりをレイ・フォワードは木々を飛び越え、枝を蹴り進んでいる。山頂付近に到着したのはメリアタウンを出てから半時間程度だった。剣士であればベテランの域であるが、そこへ法術での身体能力向上を加えるともう少し時間を短縮することができるかもしれない。
 山頂には一本の大樹がある、そこを過ぎるともう目と鼻の先だ。彼は一度大樹の根元まで来るとゆっくりと深呼吸をした。夏の早朝という割には涼しい位の気温がここまで移動してきた彼の体をゆっくりと静めていく。体温調整を施す氷と風の法術で簡単に汗を引かせることも可能なのだが、彼は自然の風を選んだ。

「やっぱりここまでくると少し涼しいな」

 森に囲まれた土地で生きてきた彼としてはこの自然の風が落ち着くのであろう。彼が深呼吸を数回繰り返しているその間に東の空から朝日が顔を出し始めた。大気によって光源が赤色をよく通す、実はこの場所から見る朝日が彼はとても好きだった。
 少し目を細めて右腕で顔を覆う、だがその目はしっかりと朝日を捉えて離さなかった。
 彼の顔にほんの僅かだが笑みがこぼれる、そしてゆっくりと歩きだし、メルリスの墓へと足を動かした。

 ほんの数十メートルの場所に彼女の墓がある、先日の騒動でその先にある崖が崩れてしまった以外はどこも変わりはない。

「おはよう、メル」