「そうね、私はこの街二日目だから普段がどうなのか分からないけど」
「朝はいつもこんな感じだよ、ゆっくりと歯車が動いて全体にその動きが伝わる様な。そんな感じ」

 レイもミトの傍へやってくるとフェンスに両手を掛けて寄りかかる。彼は眼下に広がる巨大な街を見下ろして人々が動き始めるのを見てもう一度微笑む。

「ごめんなさい、私達の所為で滅茶苦茶になっちゃって」
「うん?」

 ミトもまたそのフェンスに寄りかかって街の西側を見た、レイが振り返り同じ方向を見るとそこには巨人によって壊された城壁の一部が見えた。

「大丈夫、城壁が壊れるなんてこれが初めてじゃないんだ。この街の職人の力とスピードを侮っちゃいけないよ。だから気にしないで。むしろ海上商業組合(ギルド)は大喜びじゃないかな?」
「何で?」
「石材とかが売れるから」

 その後二人の間に少しだけの沈黙が出来たが、それは直ぐに笑い声に変わった。最初にミトが小声で笑った後つられてレイも同じように笑う。

「何よそれ、おっかしいの」
「真実だもん仕方ないよ、事実この戦争で一番潤ってるのは間違いなく海上商業組合(ギルド)なんだから。この間新しい帆船を購入したなんて噂も聞いた位だしね」

 二人は静かに動き出した街の中で楽しく笑っていた、まるで昨日の事が嘘だったかのように楽しい会話が続いている。レイなりの配慮なのだろう。それに気づいているミトは笑い終えた後呼吸を整えてからお礼を言う。

「有難うレイ、少しだけ元気になった」



「……うん、それならよかった」




 アジトの屋上で二人がそんな会話をしている中、司令本部の通信装置へと引切り無しに伝達が入っていた。ほんの少しだけ席を外していた空の本部の中で通信装置は大きな独り言のように指令室に声がこだましていた。

「”……誰もいないのか! こんな一大事に何で誰も応答しないんだ!”」

 男の声だ、外を巡回している兵隊の声だった。焦っているようにも聞こえるその声から緊急事態が伝えられる。

「”大変なんだ、巨人の姿がどこにもない!”」

 事態が動くにはあまりのも早く、彼等を巻き込み歴史は加速を始めていた。