『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

 再び巨人が動き出した、相変わらず動きは遅いものの着実にメリアタウンへと近づいてきている。城壁の兵士達も先ほどの攻撃を見ての巨人に呆然としていた、そんな兵士の一人に突如として影が落とされた。レイだ、彼は素早くメリアタウン城壁の後方から跳躍すると軽々飛び越えてきてしまった、高さ二十メートル以上の城壁を難なく易々と。その体からは冷気が放出されはじめる。

氷雪剣聖結界(ヴォーパル・インストール)

 右手に霊剣を構え空中で氷雪剣聖結界(ヴォーパル・インストール)を発動させた、一度体を後ろに捻って左手から圧縮された風圧を巨人とは反対方向へと発射した。その反動によりレイの体は巨人へと急速接近をし霊剣で切り掛かる。目標は頭部、熱せられた金属板からは熱気が漂い蜃気楼が浮かび上がっている。そこに霊剣を叩きこんだ。

「か……固いっ!」

 その霊剣でも傷を付けることはできなかった。金属同士がぶつかる音だけが響き渡りレイははじき返されてしまう。しかしレイの攻撃はそこで止まらなかった。斬撃が通用しないことを察した彼はすぐさまエーテルを練り始める。体から大量の冷気が放出されると同時に左手には青白い冷気の塊が形成されている。

「ガズル、アデルを担いで飛べ!」

 言われた通りにガズルは隣で息を切らしているアデルを担ぎ上げてギズーのいる後方へと素早く飛んだ、それを確認したレイは左手の冷気を巨人に向けて放った。

絶対零度(アブソリュート・ゼロ)

 巨人の周りが急速に気温下降し始めた、足元から徐々に氷が形成されては焼けた金属片の温度でそれを瞬時に溶かしていく。それを数回繰り返したのち完全に氷が形成されていく。するとどうだろう、ガズルの打撃もアデルの斬撃も、はたまた数千度の熱に耐えた巨人の装甲版に亀裂は入り始めた。その亀裂は徐々に広がりを見せて体全体がつぎはぎだらけの様に装甲版すべてにヒビが入っていった。その光景をみたガズルが「なるほど」と感心する。

「ヒートショックかっ!」

 巨人の体を氷が覆うのに一分と掛からなかった、頭部からつま先に至るまですべてが氷漬けになりそこからひび割れた装甲版が見えている。

「こちらレイ・フォワード、支援要請、特殊パロット砲(炸裂徹甲弾)四番から七番ダイレクトサポート。目標敵中央」

 無線機越しにメリアタウン指令本部へと伝達を入れた。

「”こちら本部、ダイレクトサポート了解。城壁パロット砲四番から七番打ち方用意”」

 指令本部から城壁の砲台観測主へと伝達が伝わる、弾丸を大筒に装填するとクランクを回して標準を巨人へと合わせいつでも発射できる体制を整える。この間僅か五秒程度。未だ空中に浮いているレイのすぐ脇をすり抜けるような砲台もあるが構わず命令が下る。

「”打ち方はじめ!”」

 その命令と共に一斉に発射された、ほぼ同時に発射された大砲からは咆哮にも似た音がメリアタウン全体に鳴り響くほどの大きさで広がる。発射時に重砲から煙が立ち上り周囲に硝煙の匂いが充満する。
 四発がほぼ同時に巨人を覆う氷に着弾した、分厚い氷だったが大砲の破壊力により氷全体へと亀裂が生じた。亀裂は瞬時に広がり轟音と共に崩れ巨人の体を覆う装甲と共に破壊した。

「――嘘でしょ」

 粉々になって破壊された装甲、その奥にはもう一枚の装甲が見える。そちらは無傷のままであった。灰色で無機質だった外装とは違ってこちらは黄金色に光る合金で出来ている。全体がやや丸く形成されていた外装は言わば鎧でこちらが本体であった。
 分厚い装甲が剥がれ巨人が身軽になる、先ほどまでの遅い動きから一転素早い動きへと変わっていく。真っ先に狙われたのは目の前にいたレイ。巨人の顔が露になると瞳の部分が赤く光りそこから光が飛んでくる。

「っ!」

 とっさに霊剣でその光を防ごうと前に構えた、飛び出してきた光は霊剣に当たるとレイ共々を地面へと弾き飛ばしてしまった。あまりにも予想外の攻撃にレイは一瞬何が起きたのか理解できなかった。またそれを見ていたアデル達も同様に巨人が何をしてきたのかが分からなかった。

 弾き飛ばされ、地面へと吹き飛ばされてしまったレイは直ぐに起き上がると再び霊剣を構える。先ほどの二倍程度の速度でメリアタウンに近づいてくる巨人に対してもう一度同じ法術を使おうとエーテルを練る。だが巨人はそれを許しはしなかった。
 先ほどと同じ光をレイ目がけて発射した、法術を唱えていたレイはその光を防ぐことも避けることも出来ないでいる。そこへガズルが飛んできてレイを蹴り飛ばした。直線状に何もなくなった光はそのまま地面へとぶつかり爆発を起こす。

「アレに当たると不味いな」

 爆発の衝撃で二人とも別々の方角へ吹き飛ばされてしまった、レイは巨人の足元へと吹き飛ばされガズルはその反対方向、つまり元の場所へと吹き飛ばされてしまっていた。仰向けで倒れたレイの目に飛び込んできたのは巨人の足の裏だった。即座に起き上がると体制を崩したまま後ろへと飛ぶ。が、巨人の足が振り下ろされた時の風圧でもう一度吹き飛ばされてしまう。今度はアデル達の元へと帰ってくることになった。

「た、ただいま」
「おかえり……じゃねぇよ! どうすんだこんなの! 絶対零度(アブソリュート・ゼロ)とトライ・ディザスターのコンボも通用しねぇとかレイヴンなんかよりよっぽどやべぇぞ!」

 お道化たレイの言葉にアデルが切り返す、事実その通りだった。彼らが今まで戦ってきた中でも屈指の強さを誇るこの巨人、動きは速くなるし攻撃方法も変わってきている。特に目から発射されるあの光が難ありなのは言うまでもない。そうこうしている内に巨人は徐々にこちらへと近づいてきている。

「何だ?」

 メリアタウン城壁まであとわずかで手が届くという処で巨人の動きが突如として止まった、すると胸部の装甲が中央から分かれて横に開いた。城壁に設置してある様な砲身が見える。ソレに真っ先に反応したのがギズーだった。彼の記憶の中からそれと似たような重砲を探し出すがどれもこれも一致しない。
 次第に巨人はその砲身をレイ達へと向けるべく状態を傾けてきた、すると砲身は赤く光り輝きだし始めた。

「やべぇのが来るぞ!」

 ギズーの予感は的中した、赤く輝きだしたと思った直後、レイ達を狙った光より巨大な光がレイ達に向けられて発射された。咄嗟の事で彼等は逃げることが出来なかった。

絶対零度(アブソリュート・ゼロ)

 着弾する寸前、本当に直前のところでレイが絶対零度(アブソリュート・ゼロ)によって巨大な氷の防壁を作り上げた。アデル達は手で目を覆い避けるしぐさをしていたが自分達が無事なことに違和感を感じて手を退かす。
 作り上げられた氷の防壁は光の直撃で破壊と形成を繰り返しながらなんとか耐えている状況だった。だが本来絶対零度(アブソリュート・ゼロ)の使用は氷雪剣聖結界(ヴォーパル・インストール)を発動させながらの法術である、まだレイのエーテル残量は残っているが、この状態が長く続けばこの防壁が崩れるのも時間の問題である。レイは何とか三人だけでも逃がそうと試みたが光があまりにも巨大であるがため四方八方を包み込むようにして防壁を囲っていた。

「ヤバイ、持たないっ!」

 破壊と構築を続ける氷の防壁は予想以上にレイのエーテルを消費させている、徐々に構築が甘くなり破壊される部分が多くなってきていた。それに比べ巨人が放つ光は一向に衰えることを知らない。
「レイさん!」

 突如レイ達の後方から女性の声が聞こえてきた、聞き覚えのある声にレイはその正体がミトだと知る。

「駄目だミトさん、逃げて!」

 だがレイの声は届かなかった、地面と城壁が破壊される音でその声はミト達へ届くことは無かった。ミト達が彼らの元へと走ってやってくる、その手には各々の武器が握られている。

「姉さん、あそこ!」

 ミトの隣を走っていたミラが巨大な氷の塊を見つけて中に居るレイ達四人の姿を微かにだが捕らえた。だが彼女たちがそれ以上近づくことはできなかった。城壁が崩れて彼女たちの前に落ちてくる、道を塞がれた状態の彼女達は迂回を試みようとするが左右にも瓦礫が落ちてきて前に進むことが出来なくなってしまった。
 ちょうどその時、巨人から発せられる光が一段と大きさを増す。一回り大きくなった光の柱は容赦なくレイが作り出す氷の防壁を破壊し始める。その衝撃は奇しくもミト達の前に塞がっていた瓦礫を吹き飛ばす形になる。彼女達はギリギリの処で耐えているレイ達をその目ではっきりと目撃した。その瞬間――。

「あ……っ!」

 突如ミトの目の前が真っ白になった、そして次々と記憶にのない光景が浮かんでくる。それらは今目の前にしている情景と偶然にも酷似していた。またほぼ同時にミラとファリックも同じ景色が鮮明に浮かび上がってきていた。記憶を失っているはずの彼女達に一部の記憶が瞬間的に呼び起こされる。
 頭が割れそうなほどの痛みが彼女達を襲った、だが頭の中に浮かび上がるイメージは止めどなく湧いて出てくる。見知らぬ人、見知らぬ場所で彼女たちは戦っている。それこそが目の前に立ち塞がる巨人に見えた。

「思い出した、アレは――」

 確かに見た記憶がある巨人と、現状レイ達が置かれている場面。それらは以前彼女達三人が目撃した状況に酷似している。そして自分達もまた戦っていたのだと思い出す。それが一体何時で、何処で、何の目的で戦っていたのかは分からない。しかし、確実にそれは敵対していた。

「アレは、私達を追ってきた『ガーディアン』」

 無意識のうちに彼女の左手にエーテルが注ぎ込まれて光の球体を作り出していた。それを宙に放ると右手に持っている杖で叩く、衝撃が加わった瞬間光の球はいくつかの小さな光の弾丸へと姿を変えて拡散しながら巨人の顔へと飛んで行った。それと同時にミラがレイ達の元へと走った。槍を左手に持ち替えて右手にエーテルを集中する、作り上げられたのは風、それを地面に叩きつけるとミラの体がフワッと浮かび上がった。

「ファリック、ダイレクトサポート宜しく!」
「了解っ!」

 崩れていく瓦礫を走りながら無事に残っている城壁上部へとたどり着いた。ほぼ同時刻にミトの光の弾丸が巨人の顔に直撃し少しだけ後ろへとのけ反った。
 次にミトはもう一度エーテルを練り上げ始め光の球を作り出し、それを巨人が放った光の柱の中に居るレイ達目がけて放つ。氷の防壁に囲まられている彼らの元へ届くと光の球は弾けて彼等四人の傷を癒し始めた。高度な回復法術である。
 ぐらついた巨人が城壁に居るミラを発見すると右腕を振り上げてミラ目がけて薙ぎ払う。だがその腕はミラへと届くことは無かった。一発の銃声が聞こえたその時、巨人の腕に弾丸が着弾すると軌道をずらしてミラの手前数センチの所を掠めていった。

「ナイスコントロール」

 ミラがニヤッと笑うと巨人の肩に飛び乗った、そのまま巨人の上部へと走りだし頭部を目指す。
 二度の攻撃を受けた巨人は完全にバランスを崩しレイ達に向けて発射されていた光の柱が彼らの元からずれて直ぐ近くの城壁へと直撃し破壊していく。

「レイさん!」

 彼らへの攻撃がずれたのを確認したミトが四人に向かって走り出した。レイもまた攻撃が止んだことで展開していた氷の防壁を解除する。防壁の幅残量僅か数センチ、間一髪である。

「ミトさん、何で――」
「話は後! 今はアレを倒します」

 消耗しきったレイに彼女は自信のエーテルを分け与える、それを見たアデルが驚愕した。契約も無しにこんな高等法術が使える事に驚いたのだ。

「あんた、一体何者なんだ」
「だから話は後って言ってるでしょ!」
「あ、はい」

 ガズルとギズーもまた驚いた、先ほどまでのミトとは全く持って別人だったからだ。あの大人しそうだった彼女がアデルをも言い負かすほど強気で啖呵を切っているのだ、これにはレイもキョトンとしている。

「これで動けるはず、今はここから逃げて。巻き添えを喰らうわよ」

 レイの手を取って走り出した、それに続けてアデル達も急いでその場を後にする。全速力で城壁内へと向けて走る彼等。そこにアデルがまた口を開いた。

「なぁ、巻き添えってなんのだ?」

 アデルの質問に対してミトは振り向かずに開いている手で巨人の頭部を指さす。そこには登り切ったミラの姿があった。槍を巨人の頭上遥か上空へと投げるとすぐさまエーテル詠唱に入る。長い詠唱を唱えながらエーテルを巨大に練り上げていく、その体からは剣聖結界時に放出される具現化されたエーテルのオーラが姿を現した。
 彼の頭上に上昇気流が発生し分厚い雲を形成していく、その雲の中では静電気が発生しそれが巨大な雷鳴をとどろかせる。長い詠唱を唱え終わったミラは目を開きその場を飛んで槍を掴みさらにその上空へと槍を投げ飛ばした。

雷帝魔槍撃(ライトニング・ダッシャー)

 放り投げた槍に雷が直撃した、避雷針の役割を槍が果たしそこから一直線に雷が巨人へと降り注いでくる。槍に直撃した時ミラがエーテルを槍に注いでいた為雷はその威力を増大し巨大な落雷となって巨人にぶつかった。

「これの巻き添え!」
「あんたの弟巻き添えになってんじゃねぇか!」

 アデルは振り返り巨人を覆いつくすほどの巨大な落雷を目撃した、今までこれほどまで大きく巨大な雷を見たことなかった彼は思わず顔から血の気が引いた。もう少し逃げるのが遅かったら自分達もアレに巻き込まれていたのかもと思うとぞっとする。もう一度巨人の頭上に目をやるとあの雷の直撃を受けても平然としているミラが槍を回収して巨人の頭上に降り立っているのを見た。

「大丈夫、自分の攻撃位自分で防げるからあの子」

 その言葉通りミラは涼しい顔をしている。雷の直撃を受けた巨人は心臓部に巨大な電圧が掛かりその動きを止めている、ようやく安全な場所まで逃げてきたレイ達は振り返って巨人を見上げた。先ほどまで暴れまわっていた巨人が動かなくなったのをその目で見て終わったと感じ、肩の力を抜いた。

 しかし――。

「まだよ、『アレ』にはもう一段階ある」

 勝った、そう確信している四人に対して水を差す様にミトが現実を告げる。その言葉通り巨人の目は再び赤く光りだして各接続部分から火花を散らしてもう一度動き始めた。