「あれからまだ半年だ、好きにさせてやろうぜ。どの道その時が来たらきっちり仕事してもらわなくちゃならねぇんだしさ」

 この山に監視の任務で登ってくるときは必ずと言っていいほどメルの墓に寄っている、一度戦闘が始まれば受け継いだ剣聖の称号通りの働きをするレイだが、今日みたいな任務の日はアデル達が気を利かせてくれている。
 普段はメリアタウンの幹部会に出席したり傭兵たちに剣術を施したりと様々な仕事をしている。こんな時ぐらいゆっくりとさせてやろうというアデルの提案だった。

 実質的なリーダーであるレイは最初こそこの案を拒んでいたが「やる時はやるんだからこういうのは俺達に任せておけ」とガズルにまで同じようなことを言われてしまい「それならば」と受け入れた。
 つい先日の衝突時にもレイの活躍は目を見張るものがある、たった一人で右翼側から攻めてくる大隊を壊滅に追い込んだのだ。
 正確に言えば先頭集団を突破し、中央から後方の人数に恐怖を植え付けたというのが正しい。そこから先は撤退していく兵士の後は追うことなくただ見つめていた。戦意喪失とみなした相手に対しては決して追うことは無かった。
 戦場においてこれは甘さなのか青さなのかと疑問視する声もあるが、現在最高火力を持つFOS軍に対してそのような意見を上げるものは少なかった。
 実質守られているのはメリアタウンに常駐してる傭兵や他国の軍隊なのだろう。最低限の戦闘だけで今のところ切り抜けられている、これがFOS軍無しで考えた場合どうだろうか? 均衡もしくはこちらの防壁突破も視野に入ってしまうだろう。それだけ彼等はずば抜けた力を保持していた。

「後二時間もしたら戻ろうか、東の空が何やら怪しい」