見渡す限り一面の砂漠、照り付ける日差しが容赦なく体力を奪いに来る。そんな灼熱地獄に少年が一人。
全身にローブを纏って日差しから肌を守っているこの少年、腰には一振りの大剣を一本。肩からベルトでくくっている。ちょうど砂丘のてっぺんにまで登ったところで一度足を止めて頭にかかっているローブをとってあたりを見渡した。
周囲に人工物もしくは日陰になるような場所すらない。少年はため息を一つついてもう一度ローブをかぶりなおして歩き始めた。
少年がこの砂漠に足を踏み入れてから今日で三日と五時間、手持ちの食料も底をつき残るは多少の飲み水だけ。
ここは世界の中心、中央大陸南部の砂漠地帯『ケープバレー』過去に大戦があり荒廃した後砂漠化した場所である。半径百数キロを砂漠で埋め尽くされその周囲には山がそびえたつ。
少年が目指しているのは砂漠と、その先にある荒野の入り口、酒場町として旅人のオアシス。彼は北東部の山を越えて砂漠に入り地図を頼りに進んできたものの一面砂漠で地形もすぐに変わってしまうこの場所で文字通り迷子となっていた。
手にしている地図を睨みつけるもまったくもって現在地がわからない、砂丘を見つけては登って周囲を見渡す作業をずっと続けている。溜息が少年の口からこの日、何度目かわからない数がこぼれたあたりで澄み渡る空を見上げた。照り付ける日差しを睨み自分の影と日の位置を確認して今自分がどの方角に進んでいるのかを確認する。
迷い始めてからすぐに実行したこの方角確認、このままなんの考えもなしに歩いていては町を見つけるどころか砂漠の出口を見つけることすらできない。その前に飲み水がなくなり息絶えてしまうかもしれない。そう考えた少年の行動だった。運よく町が見えれば吉、そうでなくとも同じ方角にまっすぐ進んでいればいつかは砂漠の切れ目まで出られる。そう考えたのだ。そしてこの少年は運のいい方向へと転がった。
その日の夕刻、日中のあの暑さから徐々に涼しくなってくるころ。目の前にひときわ大きな砂丘が見えた。少年の荷物の中には一時間ほど前に飲み水はすべて切らしている。この砂丘を登り何かが見えてくれることを祈った。
何度か砂に足を取られそうになりながらもやっとの思いで登った砂丘、両ひざに手をついて息を切らしていた少年がふと顔を上げると自分が探し求めていた物がついに見えた。
少年は大いに喜んだ、砂丘を滑り降り勢い余って転ぶ。すぐさま立ち上がり残りの体力すべてを使い切る勢いで走った。もう彼に余力は残っていない、気力と体力が続く限り動き辛い砂漠を駆けた。ガチャガチャと背中の荷物と巨大な剣がぶつかり音を立てている。ぐんぐんと速度を上げて走るその姿はさぞ滑稽だったろう、しかし今の少年にそんなことを気にしている余裕なんてこれっぽっちもなかった。生死にかかわることなのだから。だが少年はここで一つ考慮すべきことを忘れていた。
確かに砂丘から見えたのは少年の目的地である酒場町のようだった。だがこれが蜃気楼じゃないという確証がどこにあったのだろうか? もしも見えたものが実物ではなく蜃気楼の類であったのなら……その時はゾッとするであろう。