『この星で、最後の愛を語る。』~The Phantom World War~

 ――”ごめんねレイ君、きっとこの手紙を君が見てるってことは私失敗しちゃったんだね。
 きっと君は悲しむと思う、優しい君の事だから私の事でずっと泣いていると思う。でも泣かないで、私の事思うんだったらもう泣かないで。私も泣きたくなっちゃうから。そして、私の事をどうか忘れてください。
 それはきっと私の願い、私のわがまま。使命を忘れて君と一緒に居たかった。今も怖いです、失敗しちゃうんじゃないかと思うと手が震えます。でも君を守る為にも私頑張るね、だからどうか、死なないでください。

 本当はちゃんと面と向かって話をするべきだったの、でも私はそれが怖かった。全てを君に話すのが怖かったの。私は人間ではありません。二千年前から生き続けている化け物、カルバレイセス様に作られた人造人間(ホムンクルス)
 私ね、君に好きだって言ってもらえて本当にうれしかった。私も君の事が好きだよ? でもそれは叶わない恋、叶わない愛。それでもこんな私の事好きでいてくれる? そうだったら、いいな。

 私の使命は幻魔一族の監視、あの怪物が再びこの世界で悪い事をしないために監視する事。唐突にこんな事言っても分からないよね? 結論から言うね、まだあの大戦は決着が付いていないの。だから私が作られた、ううん。カルバレイセス様は初めから分かっていたのかも知れない、『サディケル様』達が幻魔を封印しても幻魔因子だけはこの世界に残されるって。幻魔因子ってのはあいつらの残留思念、全てを倒しつくしたと思ったんだけどそうじゃなかった。

 私達はあの時失敗したの、幻魔を封印して安心しきってしまった。だから私はこの長い時の中で幻魔因子を監視し続けてきた。この時代にレイ君とアデル君がいた事にも驚いたけど、その理由を知るのはまだ早いかな。きっと君達は自分たちで気づいてくれると思うの、だから私からは言わない。

 もう一度言います、幻魔は必ず蘇ります。その時レイ君、君達の力が必ず必要になります。だからその時まで生きて、生きて生き抜いてください。こんなこと言われても困っちゃうかな? でも知っておいてほしい、君達はこの世界の希望。カルバレイセス様の願いなのです、今は分からなくても構わない、記憶の片隅に覚えておいてくれればそれでいいです。きっとそのうち分かる時が来るからね。

 ねぇレイ君、私は最後に本当の気持ちを伝えることが出来ましたか? それとも伝えられずに死んでしまいましたか? できれば……君がこの手紙を読むことなく、そして、私が君の隣でこれからも仲間として……ううん、彼女として一緒に笑って過ごしていられる日が来ると良いな。
 そして、君のいるこの世界に――この世に平穏のあらんことを。

 メルリス・ミリアレンスト”――

ここまでのFOS軍状況

・登場人物

■レイ・フォワード
・氷雪剣聖結界を取得
・厄災剣聖結界を取得、限定開放可能
・カルナックより「剣聖」の称号を譲り受ける。

■アデル・ロード
・炎帝剣聖結界を取得、限定開放可能
・カルナック流抜刀術皆伝
・カルナックより「黒曜刀:ヤミガラス」を取得
・剣帝序列筆頭レイヴン・イフリートを倒し、その称号を引き継ぐ

■ガズル・E・バーズン
・重力球を用いた攻撃の多彩化に成功
・海上商業組合連合より「バトルマスター」の称号を授与

■ギズー・ガンガゾン
・ニューウェポン:ウィンチェスターライフルをカルナックより譲り受ける
・新技:法術弾の取得
・海上商業組合連合より「リトルドクター」の称号を授与

■カルナック・コンチェルト
・右腕を失い前線から退く
・称号「剣聖」をレイ・フォワードへと引き継ぎ、本人は「剣老院」の称号を海上商業組合連合より授与
・FOS軍の相談役に就任

■プリムラ・キリエンタ
・称号「偽名さん」をアデルより襲名される


   *    *   *


・専門用語

■ショットパーソル
銃火器を意味する、この場合はライフル型の銃火器

■シフトパーソル
銃火器の名称、シフトパーソルは片手拳銃型

■ガトリングパーソル
銃火器を意味する、この場合は十二連装連続発射可能な機関銃型。

■幻聖石(げんせいせき)
別名『旅袋』。どんな大きな物でも一瞬で融合して格納する事ができる不思議な石。ただし一度格納すると本人でしか具現化できず、融合した物は他の幻聖石と融合させることが出来ない。貴重な品でもあるが西大陸が原産で現地では広まっている。価格は一万シェル(この世界の通貨単位)程度

■エレメント
世界の至る所に存在する構成部質。
草や木、水等に宿る、それらを統一する精霊などが居る。

■エーテル
術者本人の魔力量の総称

■スカイワーズ
レイが開発した小型飛空機械。
燃料は主にその乗船者のエーテルを使用

■カルナック流抜刀術
継承者の少ない抜刀術、考案者はカルナック・コンチェルト。
速度重視の攻撃が主流。

■魔法
体内に存在するエーテルを具現化させる術、対象者が持つエーテル量をそのまま引き出す。主に魔族が用いる術。

■法術
体内に存在するエーテルを起爆剤に周囲に存在するエレメントを利用して具現化させる。主に人間が用いる術。

■剣聖結界
自身のエーテルを暴走させ、一時的に爆発的な力を得るカルナックが編み出した奥義。
エーテル量が少ない者がこれを使うと、暴走したエーテルに自我を食われ絶命するか魔物に姿を変える。

■雷光剣聖結界
雷を取り込んだインストール。移動速度攻撃速度が劇的に上昇する。

■氷雪剣聖結界
氷を取り込んだインストール。防御に特化していて相手を捕縛封印する事もできる。

■炎帝剣聖結界
炎を取り込んだインストール。攻撃力を劇的に上昇させ、スピードも若干上昇する。

■土竜剣聖結界
土を取り込んだインストール。鉄壁の防御力を誇る。

■森羅万象現人神
雷神・氷雪・炎帝・土竜・暴風の五つ全てのエレメントを取り入れたカルナック最終奥義、全てのエレメントと対話することが出来るカルナックだけが使える剣聖結界の最終段階。

■神苑の瑠璃
なんでも願い事が一つ叶えられるという不思議な宝石、神々の持ち物だという噂もある。

■武力国家スティンツァ帝国(通称:帝国)
主に武力で人々を支配している組織。中央大陸と西大陸を統治する。東大陸にはそれほど影響力を持たない。

■イーストアンタイル公国
反帝国を掲げるケルヴィン領主が納める東大陸最大の公国。カルナック・コンチェルトとは友好関係を持つ。
現存する四剣帝(しけんてい)の一人で序列は第三位。

■FOS軍
レイ・フォワード率いる反帝国組織、軍と銘打っては居るが所属は数人である。しかしそれぞれが一騎当千の力を持つ特殊な組織。

 第二章 神苑の瑠璃編 END

 神苑の瑠璃を巡った死闘から半年、レイ達は全世界に向けて帝国が犯した罪を海上商業組合(ギルド)を通じて発信した。明るみになった帝国に対する他国の避難が多く帝国は徐々に衰退をはじめる。不満を募らせていた一般市民も声を上げて帝国糾弾の輪はそれまで以上に広がりを見せてきた。

 しかし、巨大になりすぎた帝国からしてみれば反乱が大きくなっただけにすぎず、実質的なダメージは然程与えられていない。結果レイ達が拡散させた情報は内戦を悪化させただけだった。
 いや、いつかはこうなるだろうと海上商業組合(ギルド)は予想をしていた。それが早いか遅いかの話である。
 内戦が始まったのは今から二か月ほど前に遡る、南部都市のメリアタウンでは各地から集まる反帝国思考を持つ旅人の重要拠点として生まれ変わっていた。巨大な城壁を作り市民をはじめ反乱を強める人々を守る巨大な要塞都市へと変わったメリアタウン、現在一番大きな内戦を繰り広げているのがこの場所である。
 FOS軍の加担もあり優位はメリアタウンにあった、彼らの力は一騎当千を誇る。帝国側にも実力者は何名も残っているがそれらの大半は彼らにとっては子供と戯れる程度にしかならず圧倒的であった。

 メリアタウンの街並みも徐々に変わり始めてきている、元々貿易都市であったこの街では活気にあふれる中央広場があった。食料品や衣類と言った日常で必要なものが売られるいわば市場である、そこに並ぶ商品は様変わりして今では海上商業組合(ギルド)から流れてくる戦闘用品がびっしりと並べられるようになる。
 もちろん食料品などの今までの商品も少なからず並んでいる。こちらに関しては中央広場より十字に伸びる大きな街道に並ぶようになった。
 南の街道は石畳の道が伸び、商店が軒並み並ぶ綺麗で立派な道だった。煉瓦で出来た家々に人々の往来が多数。夜になれば街灯が灯り、酒場では旅人達が美酒に酔う。昼間の顔とは別に歓楽街としての機能も担っている。
 変わって北側には軍事拠点である海上商業組合(ギルド)支部が設立され、そこにつわもの達が日々帝国との戦闘に備えて集まる。今では司法にも携わる者たちも集まり政治もそこで行われるようになった。その一角、彼等FOS軍専用の建物が建てられている。
 専用と言っても拠点を置くために建てられた背景もあり様々な人がそこに出入りする。現在彼らの拠点に常駐しているのはいつぞやの医者と数名の志願者たちだ、集まったのはどれも実力者揃いでありメリアタウンの治安維持も一緒にになっている。そう、今この街は彼等FOS軍無しでは稼働しないと言っても過言ではない。
 元々はただの貿易都市だったここメリアタウンが此処まで繁栄できたのは良し悪しかこの内戦のおかげと言っても間違いではない。内戦と言えど戦争だ、大きな消費が生まれれば潤うものもある。今では一番危険な場所とされつつも一番飢餓から遠い場所、安全な場所として各地で噂になりつつあった。

 さて、彼等だが――レイ達四人は帝国の動向を探る為に山に出向いていた。
 メルが亡くなった日、この山のいただきに彼女の遺体を埋葬した。メリアタウンを一望できるこの場所でレイとメルは出会った。山並みは萌え、木々の隙間から木漏れ日が漏れる。鳴いてる蝉の声に混じって木々が風に揺られてざわめいている。そんな日だった。

「おーい、そっちはどうだ?」

 アデルが木に登って双眼鏡で帝国南支部の様子を見ていたガズルに問いかけた。ガズルは双眼鏡を目から話すと首を横に振って下に居るアデルに向けて声を発する。

「駄目だ、今日もそれらしい動きは無い」

 再び双眼鏡を目にあてがい遠くに見える支部の観察へと戻った。うだる様な暑さの中この監視作業も楽とは言い難い、噴き出る汗は容赦なく彼らの衣服を濡らしていた。

「そういえば冷風機はどうしたんだ?」

 ガズルはそのままの体制で下のアデルに問う、だが彼もまたガズルと同じように首を横に振った後、振り返り頂上付近を指さした。

「いつもん場所」
「あー……分かった、毎日ご苦労なこったな。気持ちは分からんでもないんだけどさ」

 冷風機と呼ばれたのはおそらくレイの事だろう、この二人は氷雪剣聖結界使用時にレイから流れる冷気で暑さを凌ごうとしていたのだ。それ故冷風機である、そこにまた一人山を登ってくる少年が居る。ギズーだ。

「冬場は大雪で今度は記録を更新し続ける暑さの夏ね、どうなってんだよ今年は」

 大汗かきながら緩やかな勾配を登ってきたギズー、両手には海上商業組合(ギルド)から支給される食べ物と飲み物が入った手提げ袋を持っていた。
 彼の言う通り現在進行形で最高気温は更新されている、去年までの最高気温を五度以上を記録し小さなダムが干上がるといった事態にまで発展していた。海上商業組合(ギルド)の気象学者達も今後の動向が読めず、さらに上昇するのか、はたまた今が異常なのかそれさえ分からずにいた。

「サンキューなギズー、海上商業組合(ギルド)はどんな状況だった?」

 近くまで歩いてきたギズーだったが、近くの木陰に座り込み持ってきた飲料をアデルに投げる。右手で受け取るとそのまま木の上に居るガズルへと放り投げる。目線はそのまま上がってきた飲み物を左手でキャッチする。もう一本ギズーはアデルへと放り投げて今度はそれを自分様にとキャッチした。
 それぞれ容器を開けて水分を補給し始めた、購入した時はさぞ冷たかっただろうそれは多少生ぬるくなっていてアデルとガズルはそれに対して苦情を言った。

「ぬるっ!」「冷たくねぇぞギズー!」

 座り込んで自分の飲み物を口に持って行き、二人と全く同じ感想をギズー自身も呟いた。仕方ないと言えば仕方ない。メリアタウンからこの山頂付近までは一時間程度の道のりで、この蒸し暑い中を移動してくればぬるくもなるだろう。しかしギズーはもっともらしい事を二人に叫んだ。

「文句があるなら次からはテメェらで行け!」

 ごもっとも、この直射日光が降り注ぐ真夏の炎天下の中メリアタウンにまで買い出しに出向いてくれたギズーへ向ける言葉ではない。だがこれには背景がある、昨夜四人で行ったポーカーの罰ゲームで一人負け続けたのがギズーだ。

「罰ゲームだろ? んじゃぁまた今夜勝負するか?」

 帽子を脱いで風を起こすアデルが笑顔で言った、それに対して木の上から笑い声が聞こえてくる。

「くたばれこの野郎……海上商業組合(ギルド)も落ち着いた様子だった、この間の大規模な衝突以降戦闘と言えるような戦闘は起きてないからな」

 悪態をついた後懐から煙草を取り出して口にくわえ火をつけた、煙を酸素と共に肺に送り込み二酸化炭素と共に吐き出す。白い煙が青空へと向かって上り、途中で拡散し消えた。両手をズボンのポケットに突っ込んで木漏れ日の中にある太陽を見上げる。

「あー、でも帝国に動きが有るって情報だ。各地に散りばめていた兵士を北の海路を使って本国に集めてるそうだぜ、既にフィリップが動いてるらしいけど、一人やばいのが乗ってるって噂だ」

 海上商業組合(ギルド)で得た情報を思い出して目線だけをアデルに向けて喋った、アデルもまたしゃがみ込んで木に寄りかかっている。

「やばいのって言ってもフィリップ公が直接相手すれば苦戦何てしねぇだろ? アレだってまたレイヴンやシトラと同じで俺からすれば兄弟子だ、『雷帝』の異名は伊達じゃねぇぞきっと」
「いや、確かにそうなんだが今回フィリップ本人は動いてない、兵隊を送り込んで何とか阻止しようと試みてるようだが」
「流石王族、自分は高みの見物か。こっちは汗だくで監視してるってのに」

 表情を歪ませてそう呟く、ここ数日の単調な監視作業に飽き飽きしてるアデルは退屈そうに山頂付近に居るはずのレイを見る。姿は見えないが何やら作業しているのは何となくわかっていた。
 午前中から監視作業を続ける三人、気が付けば正午を軽く回った辺りだろうか? ますます気温は上昇している。時折吹く風が心地よいがそれも熱風とも思える熱さが彼らを襲う。流石に我慢できなくなったのかアデルはエルメアの上部を脱ぎ始めた。鍛えられた筋肉が露になりそこに汗が光っている。

「こう暑くちゃたまらないな、ちょっとレイ呼んでくるか?」

 腰を上げて裾をはたきながらギズーがアデル同様に視線を向ける、しかしアデルはそれを制止している。
「あれからまだ半年だ、好きにさせてやろうぜ。どの道その時が来たらきっちり仕事してもらわなくちゃならねぇんだしさ」

 この山に監視の任務で登ってくるときは必ずと言っていいほどメルの墓に寄っている、一度戦闘が始まれば受け継いだ剣聖の称号通りの働きをするレイだが、今日みたいな任務の日はアデル達が気を利かせてくれている。
 普段はメリアタウンの幹部会に出席したり傭兵たちに剣術を施したりと様々な仕事をしている。こんな時ぐらいゆっくりとさせてやろうというアデルの提案だった。

 実質的なリーダーであるレイは最初こそこの案を拒んでいたが「やる時はやるんだからこういうのは俺達に任せておけ」とガズルにまで同じようなことを言われてしまい「それならば」と受け入れた。
 つい先日の衝突時にもレイの活躍は目を見張るものがある、たった一人で右翼側から攻めてくる大隊を壊滅に追い込んだのだ。
 正確に言えば先頭集団を突破し、中央から後方の人数に恐怖を植え付けたというのが正しい。そこから先は撤退していく兵士の後は追うことなくただ見つめていた。戦意喪失とみなした相手に対しては決して追うことは無かった。
 戦場においてこれは甘さなのか青さなのかと疑問視する声もあるが、現在最高火力を持つFOS軍に対してそのような意見を上げるものは少なかった。
 実質守られているのはメリアタウンに常駐してる傭兵や他国の軍隊なのだろう。最低限の戦闘だけで今のところ切り抜けられている、これがFOS軍無しで考えた場合どうだろうか? 均衡もしくはこちらの防壁突破も視野に入ってしまうだろう。それだけ彼等はずば抜けた力を保持していた。

「後二時間もしたら戻ろうか、東の空が何やら怪しい」