何処から話せばいいんだろう、あの時の記憶は曖昧でよく覚えて居ないんだ。
 記憶として焼き付いているのはメルの亡骸の前でずっと泣いていた事、それから先生が最下層へ降りてきたときの様子。ギリギリの戦いだったんだと一瞬で分かった、右手が綺麗に切断されている先生の姿を見て僕達は心底驚いた。
 それほどまでにあの最狂と呼ばれた男は強かったんだと。真っ先に先生がメルの亡骸を見て驚いていたのは覚えてる、どうやってここまで来たのか、そしてなぜ彼女が居たのか。その質問攻めは暫くしてから受けた。あの時の僕は大事な人を亡くした事それだけが頭の中いっぱいだったんだと思う。どうやってあの洞窟から抜けたのかも覚えていないぐらいだ。

 アデルが言うには僕がメルを抱きかかえてあの長い階段を上ったのだという、全く持って記憶にない。瑠璃? それは先生が破壊しようと色々と試したけど結果駄目だった。仕方なくもう一度溶岩の中へと放り投げて認識疎外の結界を施してきたらしい、再び人の目に触れぬよう、二度と人前に姿を現さぬようそう願って。