「あんだって!」
「だから何度も同じ事を言わせるなっつうに!」

 ガズルは大爆笑しながらアデルに嫌がらせに似た行為を続けた、アデルは聞き返される言葉にいちいち反応して大声にも成りながら大事な部分だけはしっかりと小さく言った。
 ガズルはアデルの言葉が十分聞こえている物の新鮮で且つアデルの口から二度と出る事はないだろうその言葉を何度も何度も聞き返した。

「だから、テメェの声は小さくて聞こえないんだよ。大体予想は出来るけどもう一度“大きな声”で言ってみろよ!」
「やかましいわ! 誰がそんな恥ずかしい事を大声で言えるかっつうにな! そもそもテメェホントは聞こえてんじゃねぇか?」
「聞こえてないから言ってんだろ? ははははは!」

 等々我慢出来なくなって言葉にも出来なくなったガズルはひたすら笑い続けた、机をバンバンと叩きながら大爆笑してそして椅子から転げ落ちた。

「いててて、それにしてもその話マジか?」
「あ、やっぱり聞こえてたんじゃねぇか! わりぃかよ、俺だって男だ。女の子を好きになって何が悪い! ってか一目惚れだよ!」

 とっさに大声になったアデルは思わず口を塞いだ、ガズルに思いっ切り笑われると思ったからだ、だがガズルは目を大きく見開いたまま何も喋らなかった。

「……」

 暫く一点を見つめていたガズルは徐に立ち上がり部屋を出た、アデルは不思議そうにしながらもガズルが出て行くのを見なかった。ずっと窓の外を眺めている。そして物音が聞こえた。

「へ?」

 ビックリして後ろを振り返る、そこには目を大きく見開いたままで立っているアリスの姿があった。

「あ、あああ、あ、アリス!」
「……」

 アリスは赤面になりながらアデルがいる部屋から勢いよく飛び出した、アデルが手を伸ばすがすでにアリスは部屋を出た後だった。そして暫くアデルはその状態から動こうとはしなかった。




 ガズルはホテルの屋上にいた、隠し持っていた煙草を一つ口にくわえてマッチをすった。火がつくと煙草に火を付ける。最初の煙は吐き出してその後ゆっくりと煙草の味を楽しんだ。ふうっと一息ついた後幻聖石が光る方向に目をやる。

「後三時間ぐらいかな、それにしてもスカイワーズとはねぇ。実用段階じゃないって言ってたのに良くやるわぁアイツも」

 ニヤリと笑みを零してた、そしてまた煙草を吸う。
 突然屋上の扉が開いた、ばたんと大きな音を立てると中からアリスが息を切らして階段を上ってきた。

「はぁ……はぁ……はぁ……」
「アリス」

 ガズルの言葉で前を向く、そこには渋い顔をしたガズルが煙草をくわえて立っている。今はニット帽をかぶっていない、緑色のジャンパーと青いジーパンを履いて少し身体を斜めにして立っていた。

「アリス?」

 もう一度言った、そして煙草を手に取ると口に残っていた煙を一気に空気中に吹き出す。アリスはまだ息を切らしながら膝に両手をかけていた。

「ガズル君」
「悪かったな、俺の相方が急にあんな事言って」
「……」

 アリスは答えなかった、まだ動揺しているのが伺えた。多分人から好きだと言われたのは初めてだったのであろう。暫くは姿勢を正してガズルの顔を見ていた。
 ガズルの顔はとても格好良かった、いつもは帽子をかぶっているのでどんな髪型なのかが全く解らないでいたが帽子を取るとそれはそれはとても格好いい物であった。綺麗な黒髪で整った髪型、少し前髪が垂れているところがほのかに良かった。

「帽子」
「はい?」
「ガズル君って何時も帽子かぶってるから解らなかったけど、顔は格好いいんだね」
「格好良くなんか無いさ、帽子を取るとアデルの方が俺の数倍格好いいぜ」
「そうだね」

 ふふふと少し笑ってガズルの横の手すりに自分の手を絡ませる。

「あの光が君達の仲間なんだね、さっきよりずっと大きくなってるからもうすぐここにつくね」
「あぁ」

 小さくそう返した、両足を肩幅に広げて左肘を手すりに掛ける。アリスを正面に捕らえて顔は幻聖石の光の方に向けられていた。

「アデルの事」
「え?」
「アデルの事、解ってやってくれ。突然あんな事を言い出したけどアレはあいつにとってとても珍しい事なんだ」
「……」
「あいつは、あいつは俺と同じ捨てられた人間だったんだ」

 突然言い出された言葉にアリスはガズルの方を向いた、そしてガズルは一拍子置いてから二人がどうやって知り合ったのかを淡々と説明しだした。

「俺とあいつは」