此処でやっと彼女の声が聞こえた、小さなその声はまるで虫の息のようだった。メルが右手を伸ばしてレイの顔をゆっくりと撫でる。

「ドジ……しちゃっ……た」
「喋るな、大丈夫だから喋らないで!」

 焦るレイの表情をみてメルがニッコリと笑った、だがその目からは涙があふれているのが分かる。それを見たレイもまた涙する。

「わたし……レイ君に……いっぱい嘘……付いてた」
「良いんだ、だから喋らないで!」

 血は止まらずに流れ続ける、笑顔だったその表情も次第に青ざめていくのが見て取れる。それを見てますますレイが焦る、

「畜生、何で止まらないんだ! なんで!」

 最大限までエーテルを放出させて治癒を行うが効果が全く見られなかった、通常であればここまでの術式を使えば細胞まで活性化されて皮膚が再生されてもおかしくない状態だった。しかし現実は全く持って異なっている。

「ごめんね……ごめんな……さい――」

 そこでメルの言葉は途切れ、レイの頬に当てていた右手がだらりと崩れた。

「……メル? メル!?」

 瞬間悟った、メルリスが魂はこの世を去ったことを。それまで微かに感じていたメルのエーテルが体からゆっくりと抜け出ていくのをレイは感じ取った。ゆらゆらと宙に漂いそして、レイの体内へと吸い込まれて消えた。



「こざかしい、人間如きが!」

 謎の生物の前に氷の壁が出現する。弾丸は全てソレにぶつかり貫通する事無く埋まっていく、飛び出したアデルはヤミガラスを具現化させて抜刀する、しかしその氷の壁はヤミガラスの切れ味をもってしても歯が立たなかった。それでも幾度となく刃を叩きこみ続ける。同時にガズルも重力球を作り出し、それを右手で殴ってドリル状へと姿を変えて突き刺す。しかしどれもこれも全く持って歯が立たなかった。

「チキショウ! なんて固さだ!」