ロクシェリベルのホテル。
 そこに三人の少年と少女が訪ねてきた、一人は黒い帽子に黒いエルメアを着た長い髪の毛を腰まで垂らしている少年と、青いニット帽を深くかぶった眼鏡を掛けている少年。そして白いワンピースに上から紫色のジャケットを羽織っている少女の三人組だった。
 三人はとかく安い部屋を訪ねた、ちょうど良い部屋を二つ借りてアデルとガズルは少し雑な部屋を、アリスはアデル達より少し豪華な部屋に荷物を置いた。

「取り敢えず安いホテルが見つかっただけでも良かったとするか、あのボロ小屋に三人は少々分が悪すぎる」

 ガズルテーブルの上に地図を広げながら喋った、アデルも自分の荷物をベッドのすぐ脇に置いてガズルの正面に座る。

「なぁ、どう思う?」
「どう思うって何が?」

 いきなり切り出したアデルにガズルが何事かと尋ねる。

「レイとメルって女の事だよ、離ればなれになってからもう一週間は経つんだぞ? いい加減心配になってきたぜ」
「そんな事言ったって今の俺達に何が出来る? 彼奴等の事を心配するなら取り敢えずこの町に居るしかないんだ、レイの言葉を忘れたのか? あいつはこの町で合流するって言ってたんだ。そう簡単にこの町からは出られないんだぜ?」

「そうだけどよ、探しに行くとか何とかしなくて良いのかよ?」

 真剣な顔をして離していたアデルにガズルが食いつく。

「なら聞くが、この大陸にいるかも解らない人間をどうやって捜すって言うんだ?」
「そうだけど」
「レイなら大丈夫だ、お前と違って頭は良いよ。その内ひょっこり出てくるさ」

 ガズルがのんびりした顔で言う、だがその裏腹は心配でしょうがなかった。正直アデルの言うとおりではあった、離ればなれになってから早一週間。人間一人が生きていける事はおろか二人、生存は絶望的ではあった。しかしレイの言い残した言葉通りここから離れるわけにはいかなかった。

「それより、これからの事を考えよう。まず残りの軍資金についてだけど」
「金か、俺達が持ち合わせていた金とアリスが貯めた金を足しても二十万シェル前後。食料と宿代を引いていくと大体一ヶ月が限度って所だな」
「一ヶ月か……その間に間に合ってくれれば良いんだけどな……」

 ガズルが両腕を組みそんな事を言った、アデルは帽子を取って机に置き椅子の背もたれに寄りかかる。
 そして二人同時にため息をついた。

「何辛気くさい話してるのよ」

 ドアが開けられてずかずかと入ってきた、アリスだった。
 アリスはアデルとガズルのちょうど真ん中に座るとガズルが眺めていた地図を見た。そして自分の鞄の中からノートを取り出して鉛筆で何かを書き始めた。

「あなた達ねぇ、さっきから聞いてればずいぶん楽に考えてるけどお金の計算間違ってるわよ?」

 突拍子にアリスがあきれ顔で二人に言った。

「はぁ?」「へ?」

 二人は同時に言った。そして計算を終えたアリスがノートを見せる、そこにはびっしりと書かれた綺麗な文字が並んでいる。

「えーと何々? マジかよ」
「マジもマジ、大マジ。たかが二十万シェルじゃ二週間が関の山よ。大体どんな計算をすれば一ヶ月なんて数字が出てくるの? そっちが知りたいわよ」

 一つため息をついてどんよりする二人の顔を見た、また一つため息をついてからアデルに向かって言う。

「所で、私に何か武器無い?」
「はい?」

 アデルは驚いてアリスの顔を見る、ガズルもゆっくりではあるがアリスの顔を見た。

「武器って、シフトパーソルが有るじゃないか」
「駄目、アレは借り物なの。もしこの大陸を出たときに戦う事が出来ないじゃない。解る?」

 真剣に怒鳴るアリスの顔を見てアデルは押され気味でいた、そして一つため息をついてバックパックから一つの短剣を取り出すとそれをアリスに向かって放り投げた。

「わわわ!」
「おい、そんなにビックリしなくても良いだろ?」
「そうだけど、いきなり投げるなんて何考えてるのよ。今一度言っておきますけどね、私は女の子なんだからね?」
「それぐらいで驚かれてちゃぁこの先不安だな」

 アリスは顔を膨らませて拗ねるしぐさをしたのち、受け取った短剣を少し振って見せる。

「軽い、意外だわ。もう少し重いものだと思ってた」

 アデルはムッとし、ガズルは静かに笑った。アリスはどんな表情で居て良いのか困り果ててその部屋を出ようとした。

「……」

 何かに気が付くと曇っている窓を開ける、暖房が外に漏れ出すと部屋の温度が少し下がった、雪が窓から部屋の中に少し入った。

「 何してんだよ、寒いじゃねぇか!」
「今日は雪が降ってるよね?」
「は? そんなの見れば解るじゃないか」

 三人が順番ずつ喋った、アリスは急に振り向き二人を睨んだ。

「馬鹿だねぇ、そんな事は誰だって見れば解る事だよ。でも、雪が降ってるのに何で星が出てるのか不思議にならない?」
「星?」 ガズルはとっさに椅子を蹴飛ばし窓に身を乗り出した、そこには確かに雪雲の中、輝く星みたいな物があった。

「星、雪、雪空、星、光、たいまつ……光、幻聖石、まさか!」
 ガズル以外の二人は彼が何を言っているのかが全く理解出来ずにいた、そしてガズルは一つの可能性を胸に抱いた。

「おいガズル、いい加減閉めてくれよ。寒いよ」

 アデルの言葉に我に返ったガズルはもう一度その光を良く見て確信した。そしてゆっくりと窓を閉めて椅子を戻し座った。

「お金の計算なら心配なさそうだ、早ければ明後日にでも出発出来るぞ?」
「はぁ? 何言ってんだよお前、レイ達が来なきゃその話も無しだろうが」
「窓の外に小さくではあるが幻聖石の光を見た、この東大陸では滅多に手に入らない幻聖石だ。先ず持っているのは中央大陸から来た人間だろうな。それも空中に飛ぶ事の出来る人並み外れた人間だけだ」
「来たのか、後どの位でここに到着するんだ?」

 ガズルは少し悩み天井を見つめる。

「そうだな、風の具合にも寄るけど掛かって明日の朝じゃないか? 早くて今夜、それでも深夜だろうな」
「どんな計算をすればそんなのが分かるんだよ、全く……相変わらず頭良いな」
「それよりアデル、お前どう思う?」
「は? どう思うとは?」
「アリスの事だよ、結構可愛いじゃないか。俺は好みだな」
「――それなんだが」