全ての斬撃を左手一本で捌ききったレイヴンは叫んだ、そこから先は来ない。
 まだ六幻は完成していないと知っていたのだ。
 しかしそれは間違いだと直ぐに訂正せざるえなかった。レイヴンはその瞳で見たのだ、六つの斬撃が自分に迫りくるのを。驚くことにアデルはこの戦闘の最中その神髄に気づいたのだ。

 六幻の神髄はスピードにあらず、一段目から繋がる怒涛の連続攻撃。
 その五段目に答えがあった。思い出してほしい、五段目は抜刀時に生じる衝撃波を斬撃と共に飛ばす攻撃だという事を。その薄れていく視界の中でアデルは飛ばした斬撃の後に微かに残る真空波を見た。既に五段目で音速を越えなければならなかった。その時に生じる真空波を刀で一つずつ拾い相手に叩きこむ。五ヵ所で発生した真空波は刀で流れを作り円を描く。
 それが光となり斬撃に見えていたのだ。高速に回転しながら移動する真空波の中心は気圧が下がり高いところから低い処へ集まる習性を利用する。するとどうだろう。六つの衝撃波はそれぞれは中央へ集まりほぼ同時に相手へと突き刺さる。

六幻(むげん)!」

 最後に納刀すると斬撃音が遅れて聞こえた。六幻の向けられた先はレイヴンの心臓、二度とそれが動くことは無く、鼓動が聞こえることも無くなった。

 まさに必殺、絶命したレイヴンはそのままアデルへと倒れてもたれ掛かる。

「あばよ剣帝、その名前俺が貰い受けるっ!」

 左肩を後ろに引くとそのままレイヴンの死体はずるりと地面に倒れた。