本来であれば神速の抜刀術であるソレに以前のキレは無かった。だがどこから飛んでくるか分からない斬撃をレイヴンは交わすことが出来ずにいた。
 いくら殺気だけを頼りに攻撃を予測しようにも限度はある、レイヴンの予想をはるかに上回るアデルの行動がその勝敗を決めた。初太刀でレイヴンの右腕を切り飛ばし二段目で彼の左足に切り傷を負わした。アデル自身もこれには予想外の表情をする。確実に仕留めたと思った左足だったが僅かにレイヴンの刀によって防がれてしまっていた。

「三つ!」

 レイヴンもまた諦めていなかった。同じ技を使える彼もまたどこに攻撃が飛んでくるのかが予想できている。その結果が二段目の防御だった。ようやく視界が戻ってくると目の前のアデルに思わず驚愕する。短時間に二度目の炎帝剣聖結界《ヴォルカニックインストール》を発動させることは出来ないとシトラからの報告にあったはずなのに目の前では確実にアデルが発動させている。これこそ彼最大の誤算だった。
 一度効果が切れれば無力になったアデルを仕留めるだけの仕事だった。それこそが間違いであると今となって気づく。利き腕ではない左腕でアデルの連続攻撃を捌いていく。四つ目も終わり五つ目に動作が移る。それさえ凌ぎ切れば反撃できる。そう確信していた。

「五つ!」

 一瞬視界が歪んだ、放出したエーテルを再度体内に取り込んでの極限に近い状態で発動させた炎帝剣聖結界(ヴォルカニックインストール)。これ以上維持することが難しくなってきた。少しずつ少しずつアデルの体を炎帝が蝕み始めた。汚染される精神の中でアデルは見た、五段目に飛ばした斬撃の残像をその目で確かに見た。そして理解した。カルナック流最終奥義六幻の本当の正体を。

「防ぎ切ったぞアデル!」