ゆっくりと仰向けになると右腕から流れる血を最後のエーテルで止血した。同時にカルナックは気を失う。この日、この世界から最狂の称号は消え去り、また一人の伝説がこの世を去った。この男、エレヴァファルが過去に孤児院を襲ったのは地位や権力、金に目が眩んだ訳ではない事を訂正しておこう。この男の本当の目的、それは全力のカルナックと戦いたかったのだ。しかし並大抵の理由ではカルナックは全力を出すことは無い。指定危険種との戦闘ですら八割程度の力しか出しておらず、初めてカルナックの全力を見たのは四竜討伐の時だった。その光景がエレヴァファルの目には輝いて見えていた。

 彼は羨ましかったのだ、これほどまでに強い男が身近にいることを。その男と戦いたい、全力で戦いたい。だがカルナックの全力を出すことなぞできなかった。そう悩んでいた時、反逆罪に問われそうになった時に思いついた大義名分が孤児院の襲撃だ。思いついた時エレヴァファルは歓喜した、そうなればきっとカルナックは全力で自分を殺しに来る。あの美しくも恐ろしい迄の姿をもう一度見られる、あまつさえ戦うことが出来る。それこそが彼の思惑だった。「最狂」、その称号はまさに彼に相応しく、また彼を表現する一言がそれであった。彼が最後に見せた笑顔、それはカルナックと全力で戦えたことに対する感謝と、楽しい一時を過ごせた安らぎだったのかも知れない。