振り下ろした手から炎が吹き出しアデルとガズルを反対方向へと吹き飛ばした。そして大きな爆発音が聞こえ爆風と共に衝撃波が二人を襲う。
身体中軽度の火傷が数カ所見受けられる二人は、その場から立つ事も困難な状態になっていた、アデルは唇をかみしめガズルは大声でちきしょうと叫ぶ。
「強すぎる、これが特殊任務部隊中隊長の力かよ。中隊長と言う事はまだこの上が居るって事じゃねぇか!」
「アデルにしちゃぁ上出来だ、でもまずはこの状況をどうにかして逃げ出さないと話にもならんぜ」
ガズルは何とか立ち上がるとなにか法術を唱え始めた、真っ正面を睨みながら黙々と詠唱を続けるガズル。
「治癒法術」
大学で学んだ回復法術だった、回復性の高い光が二人を包み少しながら体力が戻った。だがガズルにはそれが何の意味も持たない事だと知っていた。
なぜならば運良くこの燃え上がる船から脱出できたところであのレイヴンの移動速度、攻撃力、そして何より判断力を前にしてこの二人だけでは敵うはずはなかった。
「さて、この後はどう出てくるつもりだ……」
「やれやれ、あなた方は敵の気配にも気付く事が出来ないなんて全く」
突如後ろの方から声が聞こえた、形相を変えてアデルは後ろを振り返るとそこには残念そうに樽にレイヴンが座っていた。
「何時の間に」
「そろそろ遊びも飽きました、ですが、アデル君。貴方を今殺してしまうのは少々惜しい、完全にカルナックからの教えをマスター出来ずにいる。マスターしているのであれば私が今何をしているのかがすぐにでも解るはずなのに……君は全くと言っていいほど分かってはいない」
「んだとぉ!」
「逃げなさい、今回も見逃してあげます。ですが、本当に次はありませんよ、あの青髪の青年にもそう伝えておいて下さい」
ゆっくりと立ち上がるレイヴンを睨み続けるアデルは何時しか髪の毛が逆立っていた。
「最後に一つだけ教えろ、お前とおやっさんはどんな関係だったんだ!」
立ち去ろうと歩き出したレイヴンは髪の毛の色を戻して階段を下りようとしていた。アデルに呼び止められて立ち止まる、そして後ろを振り返りにこっと笑うと
「私は――君の兄弟子になりますかね?」
そう言った。
また歩き出すレイヴンの後ろ姿を睨みながらアデルは舌打ちをする。完璧な敗北だった、そしてアデルが生まれて初めて負けた事を知る。
「アデル!」
後ろからガズルが背中を突き飛ばした、そして海へと落ちる。海面に浮かび上がった時上からガズルも落ちてきた、船は積み込まれていた火薬に炎が引火し、大きな爆発音と共に木っ端微塵と化した。