瞬間部屋の中に展開されている全ての魔法陣が一斉に砕け散った、精神寒波を押し返し多重結界すら砕く恐ろしいほど強い法術。シトラは未だ経験した事の無い事象をその目で見た。あたりの時間が戻ってゆく、レイの体が僅かに横にそれた時それは姿を現した。法術を使ったのはメルだ、その体は僅かに宙に浮いている。
「っ!」
カルナックが無音でシトラのすぐ横へと近づいて来ていた、シトラの目にはまさに抜刀する瞬間が映し出されている。だがカルナックの抜刀よりシトラが先に右足でカルナックの刀を押さえた。ほぼ同時に行われたように見えるあまりの速度にレイ達は目で追うことが出来ていない。
「仕方ないわねぇ、また会いましょう先生」
「行かせません!」
再び辺りが凍り付く、今度は時間が止まったかのような錯覚さえ覚えるような感覚だった。いや、正しくは時間の経過が恐ろしく遅くなったというべきだろうか。体が動くようになった時カルナックの目の前にいたシトラは忽然と姿を消していた。
「逃げられましたか」