話し合いが終わった後全員がドッと笑ってアデルの事をからかう、赤面になりながらも何で自分がこんなに馬鹿にされているのかをじっくりと考えて雪降る空の下、船の甲板に座り込んだ。

「何だよ、わりぃかよ!」
「いや、悪くはないけど。お前って本当に素直って言うか純粋って言うか何というか……」

 少し落ち着いてきた所でガズルはいらだつアデルをなだめ始める、だがいまだ艦長は大爆笑にいた。

「アデル、お前って変だぞ?」
「だから、何でだよ!」
「何でもくそもあるか、お前の年ぐらいなら女の一人や二人は好きになっても良いんだけどな。全く可愛いぜお前は」
「う、うるせぇ! 今まで俺はアリス姉さんしか関わった事がないんだよ、むしろ男共の中で育った俺にそんな事を言うのは無理があるってモンだぜ!」

 やっと笑うのが艦長一人だけになった所で正論を語り出した、無理もないとレイはアデルに肩を貸した。やれやれとガズルは首を振る、メルは相変わらずレイの後ろで肩を潜めながらクスクスと笑う。

「アデルさんって可愛いですね」
「アデルが可愛い……はははは!」

 メルの一言でガズルが思いっ切り吹き出した、お腹に両手を当てて蹲りながら大爆笑を続ける。

「メル、余計な事を……」
「だああぁぁぁぁ!」

 アデルが顔を真っ赤にしながら帽子を甲板に叩き付け髪の毛をかき乱す、そして凄い形相でメルの事を睨む。睨まれた当の本人は身体を全部レイの後ろに隠す。

「解った! 俺だって鬼じゃねぇ、ついて来いよ! ただし、荷物だと解ったら即置いておいていくからそのつもりでな!」

 分が悪そうにアデルが後ろ向きでメルにそう伝えた、レイの後ろで嬉しそうにはしゃぐメル、それを苦笑いしてどう答えて良いか戸惑うレイ、アデルの顔を見るなりいきなり笑い出すガズルが甲板にいた。

「有り難うございます、これで私もパーティーの一人ですね!」

 はしゃぎ続けるメルは甲板の壁際により腰を掛ける、波が少し収まり船の揺れが収まり掛けたその時、突然船は大きく揺れた。

「きゃぁ!」

 メルが甲板から凍てつく海に身体が放り出された、手を伸ばすメルを必死に掴もうと少し離れた所にいたレイが手を伸ばす、だがそれは余りにも悲しく届かない距離だった。
 メルは落ちた。

「メル!」

 レイが凍てつく海に身を投げ出す。

「レイ、何やってんだよ!」

 海に飛び込むなりアデルが船の上から檄を飛ばす、暫く海面上に顔を出さなかったがゆっくりと上がってきた。

「僕の事は心配するな、必ず戻る! 東大陸の入り口“ロクシェリベル”で合流、必ず行く!」

 そう言うとまた凍てつく海の中へと潜ってしまった、船の上では全員が心配そうに海を見る。そして上がってこなかった。


「……」

 小さな小屋があった、そこに暖炉と一つのベッド。暖炉には薪がいくつもたかれていて炎が上がっている、自分のベッドの方へ目をやると少年が倒れるようにベッドにもたれていた。
 メルは状況を全く理解出来ないまま寝ているレイを起こそうとするが、酷い頭痛に襲われ再び意識を無くす。
 それから何時間が経過しただろうか、メルは何か良いにおいが鼻を擽り目を覚ます。部屋にはランプが灯されていた、窓の外はすっかり暗く、雪が降っている。

「あ、気が付いたんだね」

 奥の方から人の声が聞こえた、少年のような声は暫く出てこなかった。

「……レイ君?」
「そうだよ、いや~驚いたよ」

 ゆっくりと鍋を両手に持って現れたレイは笑顔でそう言った。優しい言葉についつい赤くなってしまうメルはベッドから降りようとする。

「だめだよ、まだ寝てなきゃ」
「大丈夫です……っと」
「ほら、言わんこっちゃ無い」

 ベッドから降りるなりふらつくメルの身体はレイの両手の中に倒れ込んだ、心配しながらレイはメルを抱きかかえて再びベッドへと寝かせる。
 そして笑顔を作り小さなテーブルの上に置いてある鍋から数量食べ物を取り出してメルに差し出す。

「これ、レイ君が作ったの?」
「うん、僕以外に誰が居ると?」
「それもそうだけど、レイ君って料理出来るんだ」
「心外だな、僕はこう見えても料理は得意中の得意なんだ。まぁ……アデルには負けるけどね」

 メルはアデルの名前を聞いた瞬間吹き出した。

「けほけほ、アデルさんって料理出来るんだ」
「うん、腕は保証出来るよ」

 笑いながらそう言うと今度は自分の分をお皿に取り食べ始める、そして綺麗に食べた。
 しばらくの間料理の話で二人は盛り上がり、時間が経つのを忘れていた。何時しか眠気が襲ってくる状態まで時間は掛からなかった。

「そう言えば、レイ君達は何で旅をしてるの?」

 眠そうにメルがそう聞く、少し驚きの表情を顔に出してからレイはベッドの上に座る。暫く何かを考えてから口を開く。

「旅をしてる理由は僕だけなんだ、アデルやガズルにはただ付き添って貰ってるというか興味本意で付いてきてるというか何というか」
「はぁ」
「数週間前、僕はとある砂漠の街で用心棒を頼まれて雇われた、その時にアデル達とは会えたんだ。会えたと思ったら今度は一つの手配書を見てそいつが僕の探している人で、町を出ようとしたら今度は帝国兵に絡まれて、その後グリーンズグリーンから船で数日経ったときにメルが出てきて、そんでもって……メルが海に落ちたからそれを助ける為に僕も飛び込んで今に至る」
「相変わらず順序よく喋るね」

 レイは笑顔でそうだねと答えた、今度はレイの方から質問を出す。

「それで、メルは相変わらずご両親を探してるんだ」
「うん、なかなか見つからなくてね……所で、ここは何処なの?」
「ここ?」

 雪降る窓の外は夜なのに白く明るかった、全てをてらしてくれる夜の太陽は隠れ今は冬の精霊達が光を奏でている。

「ここは東大陸の玄関口、ノルスゲートだよ。 あまり中央大陸とは交流はないけどそれなりの軍事国家を持った大きな大陸だよ、メルはあっちこっち旅をしているから東大陸にも来た事はあるんでしょ?」

「ううん、私はお金とかあまり多く持ってなかったから中央大陸だけ。今回お金が大量に入ったから大陸を渡ってみようと思って船に乗ったの、でも……航海の途中クラーケンの群れに襲われて」
「それでクラーケンが居たのか」

 中央大陸から離れて暫く航海を続けていたレイ達もそのクラーケンの群れに出会った、だがいとも簡単にクラーケン達を海の藻屑へと変えた。
 次ぎにメルはこれからの事を聞いた、海に飛び込んだ後にアデル達に伝えた事をそのままメルに伝えるとメルは少し悩みながら了承した。