レイが扉を開けて入ってくると直ぐさまアデルの姿が目に入った、黒いエルメアを着て帽子を首から提げている状態で船長の隣に立っていた。
船長とアデルが振り向くとレイがジャンパーを羽織った状態でそこに立っている。
「よう、ついさっきだ」
「お早うレイ君、君も一杯どうだね?」
船長が手元にあったコーヒーカップを一つ見せると頂きますと一言言ってレイはカップを受け取り口に運ぶ。
一口すするとカップを近くのテーブルにおいた。中に入っているコーヒーは波に揺れている船と同じ感じに揺れ始める。
「それにしても雪止まないですね、見張りをしている人は寒そうだ」
レイが船長の隣で言う、そうだなと半分笑いながら船長が答えた。
その時船内に無数に取り付けられた管から見張りの声が聞こえた。
「艦長、二時の方向に救命弾を確認しました。どうします、助けますか?」
「クラーケンにやられたか。反応弾用意!」
その言葉に見張りをしていた男が銃口を空に向けた。
「発射!」
船長の声と共にその引き金は引かれて空に一つのたまを発射する、撃った後暫くするとたまははじけ飛び大きな音がその周辺に鳴り響いた。するとその音に反応するかのようにもう一発救命弾が打ち上げられた。
船長は進路を変え、救出するように命じると船は二時の方向へと角度を変える。
「かかか、艦長!」
見張りの声が管を通って操作室に響き渡った、あまりの大声に一同は耳を押さえて艦長の方を見る。
「馬鹿でけぇ声出すんじゃねぇ! どうした!?」
「ぜぜぜ、前方八百メートルにクラーケンを確認しました! その数三!」
その場にいた全員が船の正面を凝視する、雪で見えにくいが確かに巨大な影が三つ確認できる。
「そーらお出でなすった!」
一度だけ驚きそして頭を抱え込む、そして船員達に瞬時にして命令が下される。
「取り舵一杯! この区域から離脱する!」
「おいおい艦長さん、あの人達を見捨てるつもりかよ! この為に俺達がいるんだぜ!」
「相手が三匹も居たら無茶だ、この船だって木っ端微塵にされちまうよ」
弱音を吐き出した船長が葉巻を大きくすった、だが彼等は納得がいかなかった。そして直ぐに艦長の右手に握られていたマイクを奪うと大声で
「皆さん、僕達が何とかします。僕達が相手をしている間に早くあの人達を救助してやって下さい!」
レイだった、そして艦長にマイクを戻すと操舵室の扉を開けて甲板へと出る。雪が降りしきる中前方に見える魔物の姿を捕らえる。
直ぐさま荷物入れから幻聖石を取り出しそれを霊剣へと姿を変えた。
「この間の酒場での啖呵、本当に大丈夫なんだろうな?」
ガズルが空から飛んできた、大きな音を立てて甲板の上に着地しレイの横に並ぶ、左手を前に構え右手はだらりと下に垂らしている。
「余裕だろ? 昔相手にしたのはもっと大きかった」
後ろからゆっくりとアデルが両手に剣を構えて出てきた、左手に持っている剣をぶんぶんと振り回しゆっくりとレイの隣に着く。
「だけど一人一匹はちょっと辛いかな?」
「一匹と言うよりは一杯かな?」
冗談交じりでガズルがレイの言葉を返す、その言葉にアデルが笑いレイが本気で怒り出した。冗談冗談と良いながらガズルもニット帽を深くかぶり何時でも飛び出せる準備を整える。アデルも帽子をかぶり直した。
レイは霊剣を強く握りしめそして剣に風を集中させる。
「ガズルは左手前の一番小さい奴お願い、二人とも行くよ!」
その言葉と同時にレイが飛び出した、真っ正面に見える巨大なクラーケン目掛けて霊剣を縦一閃に降った。だがあまり手応えがないまま弾かれそうになる。
だが霊剣に集中させていた風がクラーケンを包み込みかまいたち状になりクラーケンを切り裂き始める、そして足を一本切り取りそのままクラーケンを蹴って船に戻る。
すでにガズルとアデルもクラーケンに飛び込んでいて甲板にはまだ戻っては来ていなかった、レイはそのまま足を持って食堂へと駆け込んだ。