レイもまたイゴールによって魔人であると分かった。しかしアデルの言葉を聞いたレイは考えを改めることにした。自分には親が居たがこの世界で生きていく術を教えてくれたカルナックの存在をアデルは自身の親だと言った。思い返せば自分の人生は一度終わっているのだと、新しい人生は今なのだと。魔人であることに何の意味がある? 今まで人間として過ごしてきた自身がこれから魔人として生きる、しかし周りはきっと何も変わらない。それは自分の中での問題なのだと。

「……兄さん」
「あ? なんか言ったか?」

 思わず言葉が漏れ出してしまった、そして自身の頬を伝う無意識に流れた涙に気が付いた。慌てて涙をぬぐい笑顔で平静を装う。

「何でもないよアデル。ほら、さっさと終わらしちまおう。きっとみんな心配してるはずだ」
「そうだな、そういえばお前氷漬けになってるんだよな~。どうするかな」
「氷漬け? なんで!? 何で氷漬けになってんの!?」

 イゴールには確かに聞こえていた、レイが零した言葉をしっかりと。だがあえてそれに触れようとしなかった。イゴールからすればきっととても羨ましい言葉だろう。いや、彼だからこの二人もまた兄弟みたいな存在なのかもしれない。この世に残された魔人の末裔、自身が生み出した厄災から生き延びて現在を生きる同胞の仲の良さに少しだけ嫉妬した。


「ねぇお兄ちゃん」

 小さなレイがグイグイとレイのズボンを引っ張る、それに気が付いたレイがしゃがみ込んで小さなレイと目線を合わせた。

「ボク、しっかりとこの黒いおじちゃんの事見張ってるから頑張ってね!」
「ははは、あんまり見張らなくても大丈夫だよ。もう悪さはしないから」
「分かった、じゃぁ最後に約束して!」

 笑顔を作って両手を上げた、まるで無邪気な子供そのもののようだった。それを見たレイが小さなレイの頭に右手を置いて撫でる。その手を小さなレイは両手でつかんでにっこりと笑う。

「悪い奴ら倒してね! 必ずだよ!」
「あぁ、約束するよ。僕を誰だと思ってるんだ? 僕は――」

 そう笑顔でレイも答える、二人は笑顔で笑いながらゆっくりと手を放して互いに右手を前に突き出す。アデルはその様子を見てニッコリと笑顔を作った。

「君の未来」「ボクの願い!」

 こつん、と二人は互いの右手を合わせた。