中央大陸を出向して二日、レイ達を乗せた船はちょうど四分の一と言う所まで進んでいる。相変わらず海の上は雪が降り、視界が悪かった。
 船の監視役として一人だけ残り、他の人間は部屋で暖を取っている。
 この部屋にも暖を取っている少年が三人。

「寒いな」

 ガズルが窓の外を見てそっと呟く、レイは紅茶を飲みながら何やら小説を読んでいる、対してアデルはまだベットで寝ていた。
 紅茶が入っているカップをそっとテーブルに置き本を閉じる、そして一つあくびをすると部屋を出ようとドアの前に足を運ぶ。

「レイ? 何処に行くんだ?」
「暇だから船内を見て回る事にしたんだ、流石に暇だから」

 ふーんと一言だけ言ってレイを見送る、自分は何をしようかと悩むが何も思い浮かばずレイが読んでいた小説に手を出す。

「広い船だ」

 ゆっくりと歩きながらレイが見たままの感想を言う、部屋を少し出た所に貨物室があり、その奥に機関部、来た方向へと目をやると食堂、寝室と何もない大きいフロアがある。
 レイは機関部の方へと最初行く事にした、特別機械に興味があるわけでもないがどんな風に動いているかが知りたくなった、この船は全長五十メートル、横二十メートルほどは有る大型の船だ、そんな船をどのような機械で動かしているかなんてレイ以外でも知りたくはなるだろう。

「お、少年。こんな所に何か用か?」

 船員達が休憩している所にレイはお邪魔した、全員がレイの方を見て何かと興味深そうに見ている。その視線にレイは大きいジャンパーを脱ぎそれを腰に巻いた。

「いえ、この船がどういう風に動いているか知りたくなりまして。大きな蒸気機関ですね、初めて見ます」
「そりゃそうだろ、この船は中央大陸、ひいては西大陸でもそうそう見掛けないほどの大きさの船だ。と言っても製造元は西大陸のリトル・グリーンだがね」

 蒸気機関技術が発達した大きな街と言う事だけはレイも風の噂で聞いたことはあった、旧文明の遺産を復元させた技術街で世界中に技術を下していると聞く。

「ところで、何か手伝う事はありませんか? 部屋にいても暇で暇で……僕に出来る事があったら何でも言って下さい」

 レイが笑顔でそう言うと全員がまた笑い始める、キョトンとするレイに先ほど話をしていた技術船員が腹に手を当てて笑いながらレイに言う。

「手伝うって、レイには何も出来ないぜ? 全部力が掛かった仕事だ、その貧弱な腕じゃビクともしねぇよ」

 そうですかと一つ残念そうに言う、だがレイは諦めなかった。
 近くにあった鉄の棒を一つ持ち上げて軽く手の平で放る、ジャックの隣にいた船員が目を丸くしてレイが放る鉄棒を見てこういった。

「おいおい、その鉄棒って五十キロは有るんだぞ! なんでそんな物を軽く放る事が出来るんだ? ちと貸してみてくれねぇか?」

 レイは笑いながらその鉄棒を船員に投げた、受け取ろうと船員が手を伸ばした瞬間がくんとその手が下に落ちる。

「お……重てぇ」

 ギリギリと右腕が悲鳴を上げている、たまらず両手に持ち替えて下に下ろす。
 その様子に船員が不思議そうに鉄棒を持ち上げる、やはり重かった。大の大人が子供が軽々持ち上げていた鉄棒持ち上げられずに顔を強ばらせる。

「ちきしょう、お前さんどんな人間だよ」

 船員が一つ愚痴をこぼすとレイはニコリと笑い説明を始める。

「普通の子供ですよ、ただ……法術で筋力を調整しているのでこの細い腕でも凄い力が出るんです。でもこれは最近覚えたばかりの術なので余り活用はしてません。因みにこの剣普通に持っていられますか?」

 レイはポケットから幻聖石を一つ取り出しそれを霊剣に変える、船員の元へと足を運び霊剣を差し出した。

「それ位なら俺にだって――痛ってぇ!」

 慌ててレイが霊剣を持ち上げる、船員の手は甲板にのめり込んでいた。それを見て他の船員達が大笑いをして馬鹿にする。
 だが霊剣を持とうとした船員の手を見て馬鹿にする物は次第にいなくなった、彼の手には霊剣のグリップの部分が生々しく残っていた。

「やっぱり大人でも無理なんだ」
「何処が普通の子供だよ」

 と一つ零した、他の船員達は休憩時間が終わるベルを聞くと重い腰を上げてめんどくさそうに仕事の方へと戻った。
 居場所が無くなったのを知ったレイはまたジャンパーを羽織り寒い通路をへと戻っていく、今度は操縦をしている場所へと足を運ぶ。
 そこには船長と航海士が六人、さらにはアデルが居た。

「あれアデル? 何時の間に起きたんだ?」