そう言って剣を交差しようとした、しかしアデルの持つ剣が交差してぶつかることはなかった。アデル自身苦渋の決断を下して再びイゴールを虚無の空間へと送り出そうとしていたまさにその時だった。右手に違和感を感じたアデルは自身の腕を見る。
「待ってくれアデル」
レイだった、レイがアデルの腕を掴んでいた。
「イゴール、あんた本当にそれでいいのか?」
今までずっと見つめているだけだったレイが突如としてイゴールに話しかける。それに対してイゴールは何も発言することはなくじっとレイを見つめている。
「本当は悔しいんだろう? 帝国に一矢報いたいって言ったじゃないか、今まで受けてきた事を返したいんだろう? なのにあんたは本当にそれでいいのか?」
「……」
「それにあんた言ったよな、力をくれてやるって。だったらこのまま僕と一緒に来ないか?」
その場にいた全員が虚を突かれた、突然言い出した言葉に思わずアデルは耳を疑ってしまった。確かに無害にはなったと思われるイゴールではあるが過去の厄災の一人をこのまま体内に残すというのだ。
「レイ、お前正気か!?」
「もちろん、それにイゴールの力はアデルもよく知ってるだろう? 僕はまだ実際にそれを見てないから分からないけど、話を聞く限りじゃ先生でも太刀打ちできない程の力だったっていうし。今後僕達の力になってくれると思ってる」
確かに戦闘能力だけで見ればそれは凄まじいものはある、しかし、本当に安全だろうか? それだけがアデルの脳裏をよぎる。
「僕からもお願いするよおじちゃん」
炎帝に手をつないでもらっている小さなレイがそう言った、視線を落として小さなレイを見る。その表情には迷いの色は見えなかった。