「へへ……市民から金を巻き上げる次は子供相手に奇襲か。腐ってやがる!」

 ガズルが呟く、早朝の――目覚める前の街中ではその呟きもよく届く。レイヴンはキョトンとした顔で

「金を巻き上げる? 何のことですかな?」

 急に殺気が消えた、他の兵士たちも何事かとざわつき始める。中央にいたレイヴンは少し考えた末にゆっくりと口を開く。

「話を聞かせてもらいましょうか」

 三人は武装をそのままでお互いの顔を合わせる、最初に口を開いたのはレイだった。

「僕たちが反発してるのは確かだ、だが貴方達帝国が市民に対してしてる恐喝や強奪。それらを知らないとは言わせない!」

 一瞬レイヴンの細い目が片方だけ開く。まるでレイを観察するように。ひとしきりの沈黙の後開いた眼を閉じてため息をこぼす。腰に備え付けてある剣を引き抜くと一歩、また一歩と三人のもとへと歩みを始める。

「何かと思えば……我々帝国は市民を守る為日々周囲の警戒や魔物退治をしながら行動している。君たちの思い違いじゃないのかね?」

 足を止め三人に剣を向ける、その言葉に真っ先に反応したのがアデルだった。

「思い違いなんかじゃねぇ! 大体お前らは――」
「何をふざけた事を、お前ら帝国はいつだってそうだ!」

 言い終わる前に怒鳴り声が飛んできた。それは帝国兵士達の後ろのほうから聞こえてきた。兵士達は後ろを振り返るとそこにはこの町の住人が集まっていた。だがレイヴンは振り返らなかった。

「貴様ら帝国がこの町に何をしてくれた! 散々税金を重ね食料も片っ端から根こそぎ持っていきやがって! これでどうやって生活していくってんだ!」

 それは港にいた乗組員だった、それを皮切りにほかの市民たちも一斉に声を上げ始めた。その中には溜まりに溜まった鬱憤や不満、中には見せしめと言われ息子が殺されたと証言するものまで現れた。

「お前たち帝国がやっていくことがこれだ、これが声だ。これを聞いても俺達が思い違いをしてるといいたいか?」

 アデルが言う、その言葉に黙って怒鳴り声を聞いていたレイヴンはさらに沈黙する。静かに市民の声を聴き、何を言われているかを頭の中で整理する。
 ひとしきり怒号が繰り返され、市民のほうも言いたいことをほぼ言い終えたのだろう。ゆっくりと静けさを取り戻し始めた街にレイヴンの声がこだまする。

「この街の責任者を連れてこい、支部にて事情聴取を執り行う!」

 その声は街全体に響き渡るほどの大声だった。兵士達はレイ達三人に向けていたショットパーソルをゆっくりと下すとこの街の帝国拠点へと走り出した。

「君たちの言葉は正しいようだ、今日のところは連行する人間を間違えたようだね」

 険しい表情だったレイヴンはゆっくりと笑顔を作る、だがその細目からは再び三人に殺気を向ける。

「だが反逆罪は覆らない、次に会うときは君達を連行しなければならない。その時まで君達の事は保留としておこう」

 剣を鞘へと納めると後ろを振り返り、市民たちへと一礼する。そして彼もまた兵士達と同じ方向へと足を走らせた。三人はそれを目でゆっくりと追う。

「どう思うよレイ」

 肩についていた埃を落としながらアデルは問う。尋ねられたレイは走り去っていくレイヴンの背中を見ながら

「強い、それも確実に」

 そう、一言だけ呟いた。