「確かにあんなものまともに受け止めちまったら俺だって狂っちまいそうだ、それを助けてくれたのがレイだ。こいつ、こんなんになっても多少なり俺の事考えてくれてるみたいでよ。まぁなんでか恨まれたけど」
「恨まれていた?」
「あぁ、今更何の用だってさ。イゴールの記憶より俺はそっちに腹が立って半場それどころじゃなかった。だからこそある意味客観的にイゴールの記憶を見ることが出来たのかもしれねぇ」

 淡々と寂しそうな表情をしてアデルは話す、だがその右手は握り拳を作っていた。

「だが俺はそれが気に入らねぇ、レイはそんな男じゃねぇんだ。自分の意思を他人に捻じ曲げられるようなやわな人間じゃないんだ、それをこんなにも簡単に洗脳されちまったコイツが気に入らねぇ!」

 左足を一歩前に踏み出して地面を踏み込んだ、腰を捻って右腕を大きく後ろに振りかぶって反動をつける。

「レイ、歯ぁ食いしばれこのくそったれ野郎!」

 腰を入れて思いっきりレイの左頬に自分の右手を力いっぱい殴った。殴られた衝撃でレイの目に光が戻り意識を呼び起こした。だが殴られた衝撃は無防備でただ立っていたレイの体を吹き飛ばす結果になる。そしてあたりの景色が一変する。最初に現れた無限に広がる広大な草原へと移り変わった。
 全力で殴った、文字通り全力全開で自分の親友を殴り飛ばす。レイ自身意識が戻ってきたが自分が現在どんな状況に置かれているのか全く理解できていなかった。

「目ぇ覚めたかこの野郎!」
「アデル? え、何がどうなってるんだ」

 レイは殴られた左頬を押さえながらゆっくりと立ち上がる、最後に見た景色とは別の場所にいることに驚きながら辺りを見渡し、今自分がおかれている状況を整理し始める。

「確か僕は、イゴールの記憶を見せられて……そうだ、イゴールは!?」