厄災は火が放たれる前の小屋を無意識に見つめていた、だがアデルは別の方向を見ていた。それに気が付いた厄災が同じ場所へと視線を動かす。

「人間も、同じ気持ちだったんだ」

 そこに映ったのは泣き崩れる人間と魔人の大人たちだった、その景色を厄災は理解できなかった。何故人間が泣いているのか、大人の魔人達が泣いているのは理解できたが何故人間たちと一緒にいるのか。それも理解できなかった。

「何故だ、何故魔人や魔族までもが人間と一緒にいる」

 厄災は歩き始めた、彼の目に映った異常なまでの違和感の正体を知るために泣き崩れている人々の元へと足を運ぶ。そこには見慣れた面々が集まっていることを初めて知る。

「皆知ってる顔だ、それも魔人にまで優しくしてくれた人間の顔だ……」

 そこに並んでいた人々の顔を見て驚く、それはまさに一握りの良識のある人間たちだった。路上で過ごす魔人の子供達を拾っては匿い、独立国家の兵士から匿ってくれた人間たちがそこにはいた。

「理解したろ、何もお前たちを憎んで焼いたわけじゃない。仕方なかったんだ」

 アデルが厄災の斜め後ろに立ってそう諭す様に話した、厄災は振り返ることはなかった。唯々目の前の状況を受け入れようにも思考が混乱しているだろう。

「人間の子供も一緒に焼かれていると言ったな」
「あぁ」

 アデルが指を鳴らすと時間が進み始めた。そして一斉に声が聞こえた、人々の泣き叫ぶ声や無念を口にする声。いろんな言葉が混ざりあって厄災の耳に届く。その声に戸惑いを感じていた。

「子供というにはあまりにも幼すぎるだろうな」