「当時の医療技術じゃ治せなかった病だ、一度発症すればそれは空気感染する。初めに倦怠感が体を襲い次第に発熱を伴う。この発熱期間が長くて一見風邪の症状にも似ているため早期発見が難しいと言われているがその症状は次第に変化を見せる。発熱が続いた後最初に体の一部分が黒色化する、次第に患部は広がり始めて全身を覆い、最後には塩の塊となって体が朽ちていく。治療技術はテメェが生きていた西部戦争時代から六百年後に確立され不治の病ではなくなった。当時は感染したら最後、原因となるウィルスは熱に弱く八十度以上の高温下では生きていくことができない。空気感染を防ぐためにも感染者を焼き払う必要があった」

 次々にアデルは自分が知っている病気の歴史を話し始めた、何故彼がこれを知っているのかというとそれはガズルにある。この世界を旅するにあたって一番の悩みは病気にある。それも危険な病気だけでも覚えておけばいざという時に役に立つとガズルが幾つかの感染症について説明していたからだ。
 しかし、何故アデルがこの病名を口に出したのか。それは厄災が見せた記憶と厄災本人に答えがあった。

「黒色病は一度発症するとワクチンを打たない限り完治しない、仮に患部を切り落とし焼こうものなら一気にウィルスが増殖し症状が進行する。本来なら数週間かけて進行するものがものの数秒で体全体に症状が発生する。ウィルスの自己防衛機能で爆発的に増殖を始める――」
「デタラメを言うな、焼かれたのは我等魔人の子供達だ! お前たち人間は我等を迫害し、奴隷として労働を強制してきたではないか!」

 厄災はアデルの襟を両手でつかみ持ち上げた、身長差でアデルの体は簡単に持ち上がり地面から十数センチ浮き上がる。