「アレは熱かった、だがそのおかげで私はこれほどの力を手にすることができた。感謝しますよご老人、あなたのおかげで私は人間に復讐するという目標を作ってくれた。これほどまでに執念深く、憎悪に満ちることはない! かつて私が受けた苦しみ、憎しみ、全てをあなたに感謝せねばなりません」

「貴様、壊れているな」
「壊れている? 何を今更、何もない空間に封印され千年もこの憎悪と憎しみに囚われ続けていれば壊れもするさ。いや、壊れることを助長したと解釈するべきか――ハハハ、言うのが千年遅いんじゃないかね?」

 先程までとは違い明らかに殺気を放ち始めた、重い空気が辺りを緊張させる。ピリピリと伝わるその殺気に思わずアデルが身を引いた。彼は恐怖した、かつてこれ程までに恐ろしく禍々しい殺気を見たことがあるだろうか。否、それは人を超越した存在でしか発する事の出来ない非常に重い私怨だ。憎悪が憎悪を呼び、憎しみが憎しみを重ねる。長年積み上げられてきた殺気とは人を畏怖させる。

「テメェが人間に何されたかは知らねぇ、知らねぇけど俺のダチは返してもらう!」

 厄災の後ろでアデルが叫ぶ、その声を聴いて厄災は肩を震わせ始める。そして両手を広げて大いに笑う。

「ハハハハハハ、返してもらう? 馬鹿を言ってはいけないよアデル。少年は自分から殻の中に閉じこもったのだ、私が閉じ込めたのではない!」

 ここで初めて厄災の表情に変化があった、正確にはあったように見えた気がする。変わらずの表情だったがほんの一瞬だけ口元の広がりが増したように見えた。

「さぁ、君にも見せてあげよう! 人の醜さを! 私が受けた苦しみ、憎しみ――恐怖を!」