「あれ、このニンゲンどこかで見たことあるな。あぁ、僕の事助けに来てくれなかったアデルか。今更何の用だよ、今更来たって遅いんだよ。僕は知ってしまったから、人間の醜いところ全部を知ってしまったから。今更僕に何をするんだよアデル、帰れよ――帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ!」



「どの面下げて僕の前に現れたんだよ。僕が一番大変な時に助けに来てくれなかったのになんて顔してんだ、ふざけるな。もう僕の事はほっといてくれよ。いや、僕はもう何もしなくていいや、全てイゴールに任せよう。あいつが全て上手くやってくれる」






「レイに何をした!」

 炎の厄災と対峙したアデルが叫ぶ、その声に後ろの小さなレイが肩をビクッと震わせた。

「直接少年に尋ねるといい、返答があるとは思えないがね」

 その表情は一切揺らぐことなかった、引き裂かれた口は顔いっぱいに広がり不気味に笑っている。目は見開いているが眼球はない、その代わりに白い光のようなものが見える。一度も瞬きする事無く、一度も口を閉じることも無い。

「野郎っ!」

 アデルはグルブエレスを逆手に持ち替えるとその場を飛んだ、炎の厄災に急速接近し首に狙いをつける。確実に首を跳ねたと思った。が、グルブエレスは空を切った。炎の厄災が避けた訳じゃない、すり抜けてしまった。勢いが付いたアデルは体制を崩し、顔から焦土に落ちる。

「イテテテ、てめぇ!」
「頭を冷やせ馬鹿者、こやつに刃物なんぞ通じるか!」

 炎帝が叫ぶ、その声に炎の厄災がピクリと反応した。まさに千年以上前に聞いたその声に懐かしさを覚えて。

「そうですか、あなたが私を焼き、私に炎の力をくださったのは」

 アデルを見ていた顔がゆっくりと炎帝へと振り返る、その表情には怒りと感謝が見え隠れしていた。不気味に笑うその口から次々と言葉が出てくる。