「アデル、一体どうしたのじゃ」

 ゆっくりと歩いてきた炎帝が言う。そこにいた小さなレイは炎帝のほうを一度だけチラッと見るとまたアデルに顔を向ける。肩を震わせている小さなレイは怯えているようにも見えた。

「おじちゃんがね、そのお兄ちゃんは疲れちゃったから起こしちゃダメって言ってたんだもん!」
「おじちゃん?」

 小さなレイから発せられた言葉に違和感を感じた、仮に炎帝の事をおじちゃんと呼ぶにしては子供から見たらお爺ちゃんではないかと。その違和感は確信に変わりつつある。

「アデル、気を付けろ」

 炎帝が後ろを振り向いて警告した、それを聞いて違和感が確信へと変わった。アデルはレイから感じるエレメントのほかにもう一つ、感じた事のないエレメントを感じ始めた。すぐ近くにいる気配がするが辺りにはその姿が見えない。

「出てこい、いるんだろ! 居るんだろ! そこに居るんだろ!?」

 アデルが立ち上がり小さなレイを庇う様に後ろに下げて叫んだ、しかしそこは相変わらず広大な草原が広がっているだけだった。次第にその草原は姿を変えていく、遠くの方に山が出現し木々が地面から突如として生えてくる。次第に感じた事のないエレメントは距離を詰めてきた。

「姿ださねぇってんなら引きずり出してやる!」

 腰に差している剣を両手で引き抜くと瞬間的にエーテルを練り上げる、二本の剣を交差させて一瞬だけ刃をぶつけると火花が散った。そして一気にエーテルを放出すると光が増幅しその空間いっぱいに広がる。

「姿を見せろ、炎の厄災!」

 一面草原だった空間に亀裂が入る、ビキビキと音を立てて崩れる草原の景色があった。崩れたところは再び先ほどの焦土の景色へと変わっていく。いや、正確には違っている。今度姿を見せた景色には人が焼かれて助けを求めてるのが確認できる。女子供が泣き叫び、男が大声で助けを求める。先ほどとは似ているがまるで状況が違う景色が目の前に現れ、そして一人の人影が出てきた。全身真っ黒な姿で焦げているようにも見える、またさっきの鼻につく嫌なにおいが漂い始めた。人が焦げ血液が沸騰する匂いが辺り一面に充満する。真っ黒に焦げている顔には避けた口が横いっぱいに広がり、眼球をなくした目には白い光が丸く映っている。そう彼が――

「初めましてアデル君、君の事は彼の目からずっと見てきたよ」

 炎の厄災、イゴール・バスカヴィルが姿を現した。