しばらくして少年に動きが有った、ゆっくりと姿が消えていくとあたりの景色が一変する。緑豊かな村が姿を現した。人々は楽しそうに会話をし農業に精を出す人々。井戸の周りでは若い女性が井戸端会議をしている。行商人が露店を開きそこに村人が集まる。小さな村にしては活気あふれた景色がそこに広がっていた。

「動いたか」

 炎帝が口を開いた、アデルはスッと立ち上がりその様子をじっくりと観察する。ひとしきり見渡した後少年の姿がないことに気が付いた。

「レイはどこだ」

 周囲を見渡してもその子供の姿は見られなかった、二人は村を捜索し始める。別々に行動して少年の居場所を探すことにした。だがどこを探しても少年の姿を発見することはできなかった、いたって普通の村の日常。その景色だけが広がっていた。
 二人は一度合流して互いの状況を説明する、しかし同じような話を二人は交互に交わすだけだった。次第に日が暮れて辺りは暗くなっていく。

「もう此処にはあの小僧は居ないのかも知れんな」

 炎帝がボソッとそういった、だがそれを隣で聞いていたアデルは首を振る。

「いや、ここにいると思う」
「根拠はあるのか?」

 アデルは黙って一本の木を指さす、炎帝にもその木は見覚えがあった。アデルを追いかけて先ほどの焦土の世界にやってきたときに見た木だった。立派でとても目立つ木だった。

「多分今見てる景色はさっきの焼け焦げた景色の前何だと思う、さっき俺たちが見ただろうあの木は燃えていたけど今は燃えた形跡すらない。多分この後何かがあるんだ……動いた!」

 説明していたアデルの目の前で事が動き始める、一斉に村人が家からクワや斧をもって出てきた。それを見てアデルは一つ昔に聞いた話を思い出した。

「まさか、ケルミナか?」
「何じゃ突然」