「無駄じゃ」

 聞きなれた声が後ろの方から聞こえてきた、振り返るとそこに炎帝の姿があった。両手を腰に回してゆっくりと歩いてくる。しかしその表情は歪んでいた。

「爺さん! 大丈夫だったのかよ」
「戯け、儂はお主と共にあると言ったじゃろうが」
「ってことは、俺の深層意識からこっちに来たのか」
「うむ、深層意識をリンクさせるなんてふつう考え付かんことをお前たちは全く――して、このありさまは何じゃ? よほどひどいことがあったと思うが」

 炎帝がブツブツと小言を言う。アデルの傍まで歩いてきて二人は少年を見る。彼は先ほどから微動だにせず赤く染まった曇り空を見上げていた。二人はしばらくその様子を見ている、何か動きが有るわけでもなくじっと空を見上げている少年を見ていた。


「それで、この小僧は誰だ」

 炎帝が口を開いた、二人はずっとその少年の様子を伺っていた。だが先ほどから空を仰ぐだけでピクリとも動く気配がない。

「確証はないけど、俺の親友だと思う」
「思う?」
「あぁ、俺もこいつも小さいころにおやっさんに拾われたんだ。初めに俺が拾われてきて、それからこいつ――レイが拾われてきた。だけどその時の姿とはちょっと違うというか、違和感があるというか」

 両手を組んで首を傾げるアデルに炎帝は腑に落ちない顔で彼の顔を見上げる。まるで昔の事を思い出しているような表情をアデルはしていた。膝を曲げてしゃがみながらアデルは続ける。

「確かに似てるんだ、だけど雰囲気っていうかさ。なんて言うかこう違うって言うか」
「感か?」
「あぁ、それに近いかも。でも見た目はあの時のレイにそっくりだ」

 二人がゆっくりと会話を続けた、どちらも少年から目を離さずにずっと様子を伺っている。あたり一面焦土に包まれ煙が立ち上り、人が焼かれる匂いが充満するその世界で彼らはどれほどの時間を過ごしたであろう。