アデルは周囲を見渡す、目を凝らして観察するように見るとその匂いの正体が分かった。まぎれもなく人だった。彼の場所から然程遠くない場所に焼け落ちた小屋がある、その小屋の周囲に人のようなものが焼け焦げていた。彼は思わず目を覆う、まともに凝視できるはずなんかなかった。しかし一度目についた物は焼き付いたかのように記憶に残され、目をつぶると鮮明にその景色が蘇る。まさにトラウマ――そしてアデルは喉に強烈な違和感を覚えた。

「う……げぇぇぇ……」

 胃の中の物をぶちまける、胃酸が喉を逆流し喉と口を焼き付ける。しばらく背中を引きつって嘔吐する。出るものがなくなった胃はまだ痙攣しているが出るものがなくなっただけ少しだけ楽になる。右袖で口元をぬぐい涙目でもう一度その焼け焦げている人達を見た。服は完全に燃え落ちて皮膚が直接焼かれている。一部は内臓をばらまけて血が沸騰していた。

「ひでぇ――」

 まさに地獄、その言葉がここまで似合う状況も中々無いだろう。その景色に絶句し唖然とするアデルは思わず視線を逸らす。次に彼の目に映ったのはその場所に相応しくない小さな少年の姿だった。その少年はカルナックが連れて帰ってきたときのレイに見た目がよく似ている。が、その時の様子とは少し違っているように見える。何が違うとは断言できないが確実に何かが違っている。そうアデルは感じていた。

「レイ?」

 年は多分七歳程度、呆然と空を見上げて立ち尽くしている。アデルはその子に近寄り声を掛けた。

「おい、レイなのか?」

 左手を伸ばして少年の方に手を掛けようとした、だがその手はむなしくすり抜けてしまった。アデルは少し驚いて自分の左手を見る。もう一度少年に目をやるが確かにそこに存在しているように感じる。