「あれ……あの木」

 視界に入ったのは一本の木だった、この世界に飛ばされてきて最初に目に映った物である。これだけ無限に広がる草原の中に一本だけ立つその木は嫌でも目立つ。アデルは腰を上げてその木を目指して歩き始める。一歩一歩確実に草原を歩き木に近づいていく。一度歩みを止め後ろを振り返ると今度はちゃんと通ってきた印が残っていた。

「移動してるつもりが移動出来てなかったんだな」

 そう、アデルは歩いているつもりがもとに戻されていた。気が付いたのは一本の木だった、彼是十分以上は歩いているはずなのにその木はアデルが深層意識の中にダイブした時と同じ場所にあったからである。そして今度は目標物を見つけそこに歩き始める。今度は確実に移動していた。

「大きな木だな、お前のおかげで助かったぜ」

 木の根元まで歩いたアデルは目の前に聳え立つ大きな木に一つノックする、コツンと音を立ててその木に直接触れた。その時大きな風が吹いて木の枝を揺らし始めた。揺ら揺らと枝を揺らしその間から木漏れ日がアデルを照らす。まるで真夏にそこにいるような感覚だ。だが不思議と夏のような暑さは感じない、木漏れ日は夏のようで気温は春の陽気だった。

「なぁ、親友を探してるんだけど知らないか? 青髪で青い瞳、ついでに青いジャンパーを着てるんだけど」

 木に問いかける、それに反応したのか一本の枝が生えてきた。その枝はアデルの後ろのほうにまで伸びてピタッと止まる。その方角に行けと言ってるような気がした。

「俺を迷わせるつもりか案内するつもりか、どっちかな?」

 お道化て見せた、それに対して草木が突風で揺れる。アデルのふざけた態度に遺憾を唱えるかのようにも見えた。

「ははは、悪かったよ。あっちにいるんだな?」