何処までも続く草原があった、そこに一人だけ少年がいた。アデルだった。
カルナックにより深層意識の中へと再びダイブしたアデルだったが、そこは自分の深層意識の中ではなかった。彼の親友レイ・フォワードの深層意識の中である。見渡す限りの大草原がアデルの眼下に広がっている、草は風に揺られて同じ方向へと揺れる、まるで風が通った後を示すかのように。
アデルはごくりと唾を飲み込む、何があるかわからないその世界で彼はゆっくりと歩き始めた。その先に何があるのか全く分からないが歩くしかなかった。彼の親友を助け出すためにアデルはひたすら歩く。しかし歩けど歩けど草原はどこまでも広がっている。地平線が三百六十度広がり続けている。唯一目にしたのが深層意識の中に到達した時、目の前に現れた巨大な木だった。これがレイの深層意識なのかとアデルが首を傾げた。自分の時とは比べ物にならないほど清々しい景色だったからだ。それにちょっとだけアデルは嫉妬する。今まで一緒に過ごしてきたからこそ分かるがこれ程までに清々しい空間を持っているレイにあこがれ始めた。
数分歩いてアデルは一つの事に気が付く、彼が今まで歩いてきた道には歩いた後が見当たらないことだった。アデルはここで首を傾げて右足を上げる、そこにはアデルの足で踏みつけられた草が根元から折れている。そこから数歩歩いて後ろを振り向く。だがそこにアデルが歩いた痕跡は残っていなかった。
「不思議な処だ、レイは一体普段からどんなこと考えてんだろう」
笑いながら呟いた、それからしばらく歩くが景色が一向に変わる気配がない。流石に歩き疲れたのかアデルはその場に座り込む、もう一度周囲を見渡すが何一つ景色が変わっていない。ここでもう一つアデルは気が付く。