呼吸を整え額の汗を手で拭う、少しだけ疲労の色が見える顔を炎帝に向けてそういった。

「何と、孤児か?」
「いや、記憶がないんだ。覚えてるのはおやっさんに拾われた事だけ、場所だってあやふやでよ。中央大陸だってのは知ってるんだけどそれ以上は教えてもらえなかった」

 淡々と話していた、自身の名前以外は全て覚えていない状態でアデルは拾われていた。カルナック自身もその事については触れられてもやんわりと受け流す、きっとアデルの事を思っての行動であろう。

「分かってたのは名前だけ、それ以外は何一つわからねぇんだ。そんな俺を一人で生きていける様にと育ててくれたおやっさんには感謝しているけどな」
「そうか、すまんのぉ」

 申し訳なさそうに炎帝が頭を下げた、それを見たアデルが笑顔で首を振る。

「詫びと言ってはなんじゃ、お主の記憶を呼び起こすこともできるが」
「いや、俺は知らないままでいい。覚えてなかったことを思い出して今の俺が変わっちまうのが嫌なんだ。今はあのレイヴンって野郎に一泡吹かせてやりてぇ、帝国の思惑を絶対に阻止する。それだけが今の俺の目標であり願いだ、ありがとな爺さん」
「なら確実にコントロールできるようにならねばのぉ」



 それから何時間たっただろう。
 アデルは実に数十回とインストールの回数をこなしていく。維持する時間は当初カルナックが伝えた通り五秒前後、それ以上はどうしてもエーテルが乱れ意識が刈り取られそうになる。その度に息を切らし片膝を地面につけそうになる。だがそれだけは許されなかった。今後実戦でインストールを使う際に死活問題になるからである。

 それもカルナックが危惧していた一つであった。戦闘中、目の前の敵が意識を失い倒れたらどうだろうか? 動けない状態で無抵抗になっていた場合、それは死を意味する。