「私が法術を解かない限りこの氷は解けることも無いから暫くは作戦を考える時間が――」

 シトラが氷を背に振り返った時だった、発動したばかりの氷の結界に一筋の亀裂が入る。一つ、二つと亀裂が増えるとやがて全体にヒビが届いた。

「嘘……」

 轟音を立てて氷の結界は粉々に砕かれた、小さな氷片がパラパラと崩れ白い氷の煙の中からゆっくりと人影が立ち上がる。フラフラとしているがその足は確実に地面に立ち上半身をのけ反らせると腕を左右いっぱいに開いた。

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 三度咆哮が響き渡る。その声はレイの透き通った声ではなかった、まるで獣。人ならざる者、野獣の咆哮にもよく似ていた。その姿を見たカルナックは確信する。

「ここが、彼の旅の末路ですね」

 誰にも聞こえない声で、そうつぶやいた。

■後書き
登場人物

■炎の厄災『イゴール・バスカヴィル』
 過去に起こった最悪の厄災の一つ。人と魔族の間に生まれた魔人で人間を目の敵にする。
 全身が真っ黒に焦げていて所々が脆く崩れそうになっている。顔には真っ白な丸い目らしきものが二つと大きく避けた口の様な物が見える。

・専門用語

■炎の厄災
 今から千年以上昔に起こった一つの厄災、世界の三分の一を焦土に変えた人類史最悪の大火災。それが炎の厄災である。記録として残っているものは数少なく一部は伝承として語り継がれてきた、西大陸の中央部に位置する当時の国家で異変は起きた。
 街外れの犬小屋から突如出火し、巨大な爆発を起こす。その爆風は数千度に到達し衝撃波を伴い西大陸全土を襲った。爆心地グラウンド・ゼロから数十キロは爆発により吹き飛び、吹き飛ばされた瓦礫は中央大陸の東部に落下したと伝わる。被害は東大陸の一部でも確認されている。爆発時のきのこ雲は現在のケルヴィン領主が納めている地域でも目撃情報があった。(本編より)

 イゴール・バスカヴィルのエーテルが感情により暴走、数十キロを吹き飛ばし自身も炎帝に精神を食われている。当時のバスカヴィルからは人格は完全に消え去りモンスターへと姿を変貌している。また、当時の帝国によって異空間へと封印されている。