暫くするとアデルの子分達が慌てた表情で戻ってきた、手には何やら一つの紙が握りしめられている。

「だだだ、旦那! 此奴を見てくだせぇ」
「何だよ、明らかにお前達の方が年上なのに旦那はやめろって。んで? なんだその紙は」

 アデルは子分の一人から紙を受け取りそれを見始めた、光具合からレイには薄く上の方の文字が透けて見えた。『指名手配』と書かれた文字が薄く見えその下には何処かで見たような顔が映っていた。

「賞金首か、にしても金額が高いな。二千万シェル(お金の単位:シェルはこの世界の通貨)なんて高額めったに見ないぞ?」

 ガズルがその金額に目を光らせる、無理矢理アデルからその紙を奪いなめ回すようにじっくりと見る。レイも金額を聞いた瞬間どんな奴か知りたくなった。

「グリーンズグリーンを拠点に半年前から帝国兵士及び一般市民を虐殺したとして全国指名手配。生死を問わずとらえた者には二千万シェルの賞金を出す、指名手配犯の名前は――」

 ガズルがそこまで読むとアデルがその紙を取り上げ続きを読み始める。

「名前はギズー、『ギズー・ガンガゾン(・・・・・・・・・)』。ガンガゾンって、あの殺し屋ガンガゾンか? それならこの金額も……っておい、どうしたレイ?」

 目を点にしてコーヒーカップを持ったまま何も喋らずに呆けているレイを見てアデルが難しい顔をしながら聞いた、だがレイはアデルの問いかけに何も答えずそのままの格好で固まっていた。

「……」
「オイ、大丈夫かレイ?」

 そのままの体制から急に立ち上がりコップを落とす、目の色が変わりアデルの手に握られている紙を奪い取った、直ぐにその目を丸く開く写真を見る。

「あいつ!」

 レイは急にその場から走り去った。次ぎに出てきた時は荷袋をまとめて青いジャンパーを羽織って階段を下りてきた。

「おやっさん、今までありがとう」

 レイが風吹くさざ波停から出ようとした時マスターが呼び止めた。

「待ちな」

 レイは急ブレーキを掛けたように少し滑りながら出入り口で止まった、振り向くとそこにはガトーが何か袋を持っている。

「受け取りな!」

 投げた袋はレイの手の中に収まった、中には少しばかりのお金と幻聖石が入っていた。

「これは?」
「今までのお礼だ、とっておきな」

 ガトーが左手を前に出して親指を上に突き上げた。レイはその手を見て笑いながら自分も親指を上に突き上げた。

「おい」

 レイの左斜め後ろの方から聞き慣れた声が聞こえた。

「俺達も連れて行けよ、楽しそうじゃねぇか?」
「アデル、あぁ! 良いよ。ただし、アデルとガズルの二人だけだ、他の連中はこの町で待機させておいてね」

「あん? 何で俺が」

 ガズルが面倒くさそうにレイの方を見る。

「アデルが認めた人でしょ? 見てみたいんだ、君の強さを」

 ガズルがキョトンとしてレイの顔を見続ける、アデルがガズルの方に手を回し行こうぜ? と促す、少し目をつむりフッと笑ってレイを見返す。

「良いぜ? 行ってやるよ。ただし、つまらなくなったら俺は直ぐに引き上げる。良いな?」
「了解」

 そう言うと直ぐさま三人はその酒場を後にしようとした、だが酒場の前には何人もの兵隊がうじゃうじゃと集まっていた。肩にショットパーソル(注意:火器の事、ショットパーソルはライフル型重火器)を背負っている。
 その中に傷だらけの朝方見た兵隊も見受けられる。

「隊長! 此奴らです、帝国に反発する奴らは!」