「これが――こんな事がっ」
レイはその歴史を見た、伝承にだけ語り継がれてきた炎の厄災をその目で見た。
おぞましいほどの憎悪、耐え難き苦痛。厄災の真実をその目に刻んだ。そして思い出す、爆風で家が燃え人が燃え犬が燃える。髪の毛と肌の焼ける匂い、助けてと叫ぶ人々の叫び声。厄災と対峙したときに見えたビジョンの数々。一つ一つ鮮明に思い出した。
「これが人の性だ」
厄災はレイの隣で語る、悲しき魔人が見せた過去の記憶。一体彼らが何をしたというのか、レイも同じことを考えていた。伝承に残るのはすべて人が優位に見せるための偶像。捻じ曲げられた真実、こんなもの……まともでいられるはずがない。
「もう一度問う。少年よ、これでも人間である事に固着するか?」
三度心臓が鳴りギュッと右手で胸を押さえる。すさまじいまでの激痛がレイを襲い一瞬だけ意識が飛びそうになった。歯を噛みしめ崩れそうな足に力を入れた。
「少年よ、……いや、我等が同胞よ。我ら魔人は決して人間を許してはならない」
踏みとどまった意識はゆっくりと刈り取られるように薄れていく、次第に膝から崩れ落ち項垂れる。もうレイの耳に魔人の言葉は届かない。
「私に身を委ねろ、力をくれてやる。その力で我らが願いを叶えよう」
大きく避けた口は終始そのままだった、厄災は崩れたレイの体に手をかけ顔を覗き込んだ。その眼は瞳孔を開いたまま、瞳から光が消えていた。
「さぁ、楽しい楽しい時間の始まりだ」
「剣聖結界」「剣聖結界」
カルナックとシトラは同時に叫ぶと体内のエーテルが弾け飛ぶように乱れた、先ほどまでの二人とはまるで別人の様なその後ろ姿にガズルとギズーは言葉を失う。

