視界がぐにゃりと揺れる。無数の小さな光が一点に集中する、光の集まる先に黒い何かがあった。中心に近づく光は黒い何かの近くまで引き寄せられると円を描き消えていく。次第に吸い込まれる光の量が増え黒い物体の周りが輝きだす。

「違う、違う違う違う違う違う違う違う! 僕はっ!」

 もう一度心臓がドクンと鳴った、先ほどのより格段に心臓が軋む。痛みが増し立つことがままならない。その場に蹲ると両手で心臓を押さえた、瞳孔は開き顔が歪む。

「あ……あが」

 声にならなかった、経験したことのない痛みにレイがもがく。それを見ながら厄災は両手を下し例に近づく。

「受け入れよ少年。人間に固着することに何の意味がある」

 悶絶するレイに厄災は問いかける、諭す様になだめる様にゆっくりと問いかける。それはまるで新しい宗教の誕生を見ているようだ。救世主が人々に救いの手を差し伸べるかのようなソレは、信仰にも捉えられる。

「見よ、人間がいかに愚かで浅ましい種族かを。人が私にしてきたソレを」

 光り輝いていた場所から急激にまぶしいまでの閃光が広がる、辺り一面を照らし暗闇は真っ白な空間へと姿を変える。音もなく風もない、唯々真っ白な空間。レイは途切れそうな意識の中で厄災の言葉を聞いた。その瞬間心臓の痛みは止まり苦痛が消えた。顔を上げると厄災は右手で一つの場所を指さす。そこに扉が現れた。

「はぁはぁ……」

 ゆっくりと立ち上がり呼吸を整える、右手はまだ心臓を押さえている。指さされた扉はとても古く、朽ち果てる寸前のように見える。

「あの扉は、何だ」

 大きく深呼吸した後レイは尋ねた。厄災はずっと表情を変えず淡々と話す。

「私の記憶。少年が人であるというのならば見てみるがいい」