「こんなに早く会えるとは思わなんだ」

 もう一度声が聞こえた、今度は直接脳内に大音量で響く。咄嗟のことにレイは両手で頭を押さえる、ひどい頭痛がするようにギンギンとエコーまで響く。

「お前、誰だ?」

 あまりの痛さに片膝をつく、片目をつむり息を切らしながら睨む。この男はレイの事を知っているようだ、だがレイは目の前の男を見たこともない。しかしこの声は聞き覚えがあった。

「この声、時々夢の中で語りかけてくる奴か!?」
「あぁ、この瞬間をどれほど待ちわびたか。少年には感謝している、この声は聞き取り辛いか? まだ調整が上手くいかなくてね。少し我慢してほしい」

 今度は穏やかに聞こえた、ノイズも次第に取れてクリアに聞こえてきた。脳内に響くのは相変わらずだが格段に良い、違和感までは取り除けないにしろ頭痛は取れた。両足でしっかりと地面に立つと警戒しながらもレイは語り掛ける。

「もう一度聞く、お前は誰だ」
「少年も知っているだろう。私がそう名乗り少年がそう名付けたのだから」

 ドクン、心臓が一度大きく鳴った。右手で心臓付近の服を鷲掴みにする、心臓が痛い……握りつぶされるような痛みだ。同時に目の前の視界が霞む、チラチラと見た事のない景色が映し出される。真っ赤に燃える家々、逃げ惑う人々。次に嗅覚に異変があった。焦げた匂いがした、髪の毛が燃える匂いがする。

(なんだこれっ!)

 続いて聴覚、女性の悲鳴が聞こえる。女、子供と続いて男性の助けを求める叫び。遠くから聞こえる獣のような声、犬だろうか? いろんな音がすべて混ざりレイの耳に届く。

「僕に……僕に何をしたっ!」
「私の過去を見せているだけだ、少年に危害は加えない」

 男はニッコリと笑う、目元は影に覆われていて見えないが口元だけははっきりと見える。不気味、その言葉が此処まで似合う者は早々居ないだろう。