レイは凄まじい勢いで振り返り大きく振りかぶられた剣を避けることなく手で弾きバランスを失った身体に回し蹴りを一発入れる。
大きく吹っ飛び苦しそうに胸を押さえる、そこへ足下がいくつか見えた。男は顔を上げると黒い帽子に黒いエルメアを着た青年を見る。そして足にしがみつくように助けを求める。
「助けてください! あそこのガキが俺達を殺そうと――」
だが男の首は勢いよく弾かれ宙に舞った、首と体を切断された男の亡骸を見て黒い帽子の少年が汚れた裾を叩き「何が殺そうとだ、これだから帝国は」一言だけつぶやいた。
少年が辺りを見回しレイの所に近づく、
「あんた、ここの町長を知ってるか?」
「ん? あぁ、直ぐそこの風見鶏がついてる家だよ。それにしても強いな君、凄腕の剣の持ちぬ――」
そこでレイの言葉は止まり黒い帽子をかぶった少年の顔をじっと見続けた、気味悪そうに黒い帽子をかぶった少年は後ろに一歩下がり帽子を上げる。
「何だ、俺の顔に何か付いてるか?」
「あぁ!」
突然レイが大きな声で叫んだ、その声は黒い帽子をかぶった少年の耳の鼓膜を破らんとばかりに響いた、あまりの大声に周りにいた人間が何事かとレイの方を見る。そばにいた彼等は直ぐに耳を塞いだ、長く響くその声は暫く続いた。
「痛ててて、なんだよ!」
まだ耳がキーンと鳴っている、左手の人差し指が左耳の穴を塞いでいる。
「アデル? あんた『アデル・ロード』だろ!」
「あぁ? そうだけど、お前誰だ?」
何故この少年が自分の名前を知っているのか疑問に感じた、見たところ旅人の格好をしているこの少年が何処かで合って居るかのように懐かしそうに顔がにやけている、だが自分の中ではこの少年との面識はないと語っている。
「僕だよ僕、ほら!」
「だから誰だよって何だぁ?」
レイは小物入れから一つ青い球を取り出しそれを剣の形に変えてから黒い帽子をかぶった少年に放り投げた、その剣はアデルと呼ばれた黒い帽子をかぶった少年の手の平に渡るとがくんと一気にその手から落ちるように重くなる。
階段でその重い剣を見ながらアデルは叫んだ。
「この馬鹿みたいに重たい剣、レイだな!?」
「ご名答!」
「分かった! 分かったから早く『霊剣』を取ってくれ、手が潰れちまうよ!」
「驚いた、まさかアデルと会うなんてな、何年ぶり?」
レイはオーナーにコーヒーを頼むとすかさずアデルに質問する。
「二年半、それ位か。俺がおやっさんの所を飛び出したのは」
「勝手に居なくなっちゃうんだもん、あの時は驚いたよ。隣は?」
レイが先ほどから黙って外を眺めているニット帽をかぶった少年のことをアデルに訪ねた、その時マスターが三人分のコーヒーを運んできた、それをゆっくりと飲みながらアデルは口を動かす。
「此奴はガズル、『ガズル・E・バーズン』。半年前に別の町で食い逃げをしてな、その時に一緒に逃げた口だ」
「く、食い逃げって……」
あきれ顔でアデル達を見るレイ、暫くするとガズルと紹介された少年が静かに口を開く。
「レイって言ったっけ? 宜しくな」
「宜しく。アデルと一緒に行動してるなんて君も大したもんだね」
ガズルもまたコーヒーを片手に簡単な挨拶を交わした。
「所でレイ、何でお前はこんなの所に居るんだ?」
話がいきなり自分の方に降られてきたので少しビックリした、だがアデルの質問にレイは適切な答えを用意していたかのようにほぼ即答に近い状態で答える。
「探して居るんだ、友達を」
「ダチ?」
アデルがさらに聞き返す、レイは冷めたコーヒーを一口すすると、
「僕が先生の所を出るきっかけになったのはあいつがやってきた時だ。あいつは先生の弟子にして欲しいと言ってきてさ、先生はその理由を聞いたけど、その子はただ強くなりたいの一点張りだった。だけど先生はその子を弟子にはしなかった」
カップを両手に持ち揺れるコーヒーの波を見つめる。
「代わりに僕を旅の同行者としてついて行くように言われた。最初はお互い考える事が一致しなかったり喧嘩をしたりと色々としてたんだけど、暫くすると友達感覚になって。だけど旅の途中でその子とはぐれちゃって、勿論探し回ったさ。結局見つからなかったけど。その後風の噂を頼りにずっと探していて偶然この町にたどり着いたって訳。所で、僕の事よりアデルの方はどうなんだよ?」
コーヒーカップを置き淡々と話し終えたレイは逆にアデルに質問をする。アデルはキョトンとしていて何から答えればいいか迷っている様子だった。
静かにカップを置きため息を一つしてからゆっくりと口を開いた。
「似たり寄ったりかな? 最初はそこそこ生活出来てたんだけどさ、生活費がな。そこで食い逃げをしてさ、此奴と一緒になったってわけさ」