迂闊に声を漏らすことですら恐れ多い。


 朱熹の目の前にいたのは、紛れもない皇帝陛下であった。


 慌てて座り直し、頭を床につける。


 陛下に断りもなくお顔を直視してしまった! なんという失礼なことを!


「良いのだ、頭を上げよ。むしろ、頭を下げるべきは余の方だ」


「め、めっそうもございません……!」


 身に余るお言葉を掛けられ、頭を上げることができなかった。


 陛下直々に赴いていらっしゃった。


そして、お優しいお言葉を掛けてくださった。


 これは、疑いが晴れたと思っていいのかしら……?


 おずおずと頭を上げ、探るように皇帝陛下の顔を見上げる。


 天江国(てんこうこく)皇帝、曙光(しょこう)。


 麗しく威厳に満ちたそのお顔は、数時間前に初めて拝見した時となんら変わりはなかった。