春、23歳。朝、母校である中学に新任教師として就職することになり向かっている途中、誰かと正面からぶつかった。
「きゃっ・・・」
「っいてて・・・・」
少女マンガのような、ベタな出会い。
しかし、私たちの間に恋が芽生えることは決してない。
お互いを認識すれば、私も相手も言葉を交わすことなくそのまま去る。
私は岸野井遥香。さっきぶつかったのは幼稚園のころからの幼馴染である東畑昴。
小学校までは兄妹のように仲が良かったのに。いつからこうなってしまったんだろうか。もう覚えていない。
中学に上がってから私が勉学に励むようになると、昴は反対に遊び呆けるようになった。
中学の後半からは女遊びまでし始めた。
たぶんそこからなのだろう、私たちの関係が拗れていったのは。
最終的に、何度理由を聞いたり苦言を呈したりしても聞く耳を持たない彼に諦めた私は無視することにした。
それからはもう自然と、今までの幼馴染の関係なんかなかったように私たちは関わらなくなった。
新任教師としてクラスを受け持ち、授業をやっていると早くも放課後になった。
そして家に帰ろうかと準備しているとき、電話がかかってきた。
しかし、その名前を見てつい訝しんでしまった。
電話をかけてきたのは、5年以上連絡も取っていない昴の母親、東畑希子さんからだった。
まだ小学生のときはよくお互いの家を行き来していたため、昴の母親のことを希子おばさんと慕い、彼女もよくしてくれた。
しかし、それも高校に上がる頃には全くなくなってしまった。
それなのに、何の用事だろうか。
「はいもしもし。お久しぶりです。どうかしたんですか?」
電話に出ると、何やらとても焦ったような声が聞こえてきた。
「お願い! 今すぐに来てちょうだい・・・! 昴が、昴がッ・・・・!」
「ま、まずは落ち着きましょう、希子さん! 昴に一体何があったんですか?」
取り乱す希子さんに落ち着いてと言う私も正直、混乱してしまっている。
本当に、一体昴に何があったんだろうか・・・?
「・・・ごめんなさい、取り乱してしまって。でも本当に緊急事態なのよっ! 昴が轢かれそうになった女の子を咄嗟に庇って代わりにっ」
「どこの病院ですか!? 昴は、どこなんですかっ!?」
しかし気付くと私は、話を遮って叫び、その場を駆け出していた。
「あっ・・・・家に一番近い大学病院よ。そこで今・・・・」
「ありがとうございます、すぐに向かいます!」
病院に着いたのは2時間も後で、息が完全に上がってしまっていた。
案内された部屋に行くと、先客がいた。
ふんわりとした茶髪の、私や昴と同い年くらいの可愛らしい女の子だった。
その子はごめんなさい、ごめんなさいと何度も呟きながら嗚咽を漏らして泣いていた。
「っ昴・・・・ッ!!」
昴のベッドに駆けつけた私にようやく気付いた彼女が顔を上げた。
昴はたくさんのチューブに繋がれていた。
後から医師からは植物状態だと聞かされた。
警察や病院から詳しい顛末や昴の状態などを聞いているうちにあの女の子はいつのまにかいなくなっていた。
何度も昴の名前を呟いていたのでおそらく、昴の彼女だったのだろう。
そう考えて私は昴らしいな、と思った。
昴は私との仲は最悪だったけれど、他の女の子や付き合う女の子にもその度その度、きちんと誠意を持って接していた。大事にもしていた。
未だ、ベッドで眠り続ける昴に私は語りかける。
前からそういうあんたを注意してた私だけど、それがあんたの生き方だったんだね。
後悔はないんでしょ? 穏やかな顔なんかしちゃって。
・・・・すれ違ったままで、また昔みたいな仲のいい幼馴染に戻ることはできなかったけれど。願わくば来世があるのなら、今度こそ間違えないようにしようね。
なんなら、昴が私を避けるようになった理由も教えてよね!、と。
「きゃっ・・・」
「っいてて・・・・」
少女マンガのような、ベタな出会い。
しかし、私たちの間に恋が芽生えることは決してない。
お互いを認識すれば、私も相手も言葉を交わすことなくそのまま去る。
私は岸野井遥香。さっきぶつかったのは幼稚園のころからの幼馴染である東畑昴。
小学校までは兄妹のように仲が良かったのに。いつからこうなってしまったんだろうか。もう覚えていない。
中学に上がってから私が勉学に励むようになると、昴は反対に遊び呆けるようになった。
中学の後半からは女遊びまでし始めた。
たぶんそこからなのだろう、私たちの関係が拗れていったのは。
最終的に、何度理由を聞いたり苦言を呈したりしても聞く耳を持たない彼に諦めた私は無視することにした。
それからはもう自然と、今までの幼馴染の関係なんかなかったように私たちは関わらなくなった。
新任教師としてクラスを受け持ち、授業をやっていると早くも放課後になった。
そして家に帰ろうかと準備しているとき、電話がかかってきた。
しかし、その名前を見てつい訝しんでしまった。
電話をかけてきたのは、5年以上連絡も取っていない昴の母親、東畑希子さんからだった。
まだ小学生のときはよくお互いの家を行き来していたため、昴の母親のことを希子おばさんと慕い、彼女もよくしてくれた。
しかし、それも高校に上がる頃には全くなくなってしまった。
それなのに、何の用事だろうか。
「はいもしもし。お久しぶりです。どうかしたんですか?」
電話に出ると、何やらとても焦ったような声が聞こえてきた。
「お願い! 今すぐに来てちょうだい・・・! 昴が、昴がッ・・・・!」
「ま、まずは落ち着きましょう、希子さん! 昴に一体何があったんですか?」
取り乱す希子さんに落ち着いてと言う私も正直、混乱してしまっている。
本当に、一体昴に何があったんだろうか・・・?
「・・・ごめんなさい、取り乱してしまって。でも本当に緊急事態なのよっ! 昴が轢かれそうになった女の子を咄嗟に庇って代わりにっ」
「どこの病院ですか!? 昴は、どこなんですかっ!?」
しかし気付くと私は、話を遮って叫び、その場を駆け出していた。
「あっ・・・・家に一番近い大学病院よ。そこで今・・・・」
「ありがとうございます、すぐに向かいます!」
病院に着いたのは2時間も後で、息が完全に上がってしまっていた。
案内された部屋に行くと、先客がいた。
ふんわりとした茶髪の、私や昴と同い年くらいの可愛らしい女の子だった。
その子はごめんなさい、ごめんなさいと何度も呟きながら嗚咽を漏らして泣いていた。
「っ昴・・・・ッ!!」
昴のベッドに駆けつけた私にようやく気付いた彼女が顔を上げた。
昴はたくさんのチューブに繋がれていた。
後から医師からは植物状態だと聞かされた。
警察や病院から詳しい顛末や昴の状態などを聞いているうちにあの女の子はいつのまにかいなくなっていた。
何度も昴の名前を呟いていたのでおそらく、昴の彼女だったのだろう。
そう考えて私は昴らしいな、と思った。
昴は私との仲は最悪だったけれど、他の女の子や付き合う女の子にもその度その度、きちんと誠意を持って接していた。大事にもしていた。
未だ、ベッドで眠り続ける昴に私は語りかける。
前からそういうあんたを注意してた私だけど、それがあんたの生き方だったんだね。
後悔はないんでしょ? 穏やかな顔なんかしちゃって。
・・・・すれ違ったままで、また昔みたいな仲のいい幼馴染に戻ることはできなかったけれど。願わくば来世があるのなら、今度こそ間違えないようにしようね。
なんなら、昴が私を避けるようになった理由も教えてよね!、と。