「澄人……ありがとう」

 妹とまた暮らすことなんてできるわけがない。あの家で……藤堂の本家で、蝶よ花よと可愛がられている都姫を連れ出すことなんて無理だ。彼女自身、出て行きたいとは思わないだろう。

 もう叶うわけがない物語だけれど、澄人の気持ちは嬉しかった。

「あ、今のは……つ、ついに返事をくれたってことで良いのか?」
「……違うわ」
「えー! 今度こそそうだと思ったのによ!」

 澄人は、穂波に何度もその思いを伝えているが、穂波から明確な返事をしたことは一度もなかった。

 いくら一族内で最下位の家系だとしても、あの藤堂家の分家なのだ。身寄りのない、町の配達屋に嫁げるわけがない。婿養子として迎えることも、白洲家の人間たちが許すわけないだろう。

 でも……いっそのこと澄人とどこかに逃げるのも良いかもしれない。そんな堅実な彼女らしくない考えが、脳裏によぎった。今日、ずっと会いたかった妹の、あんな言葉を聞いてしまったから。

 白洲家で耐え忍んで生活していく意義も穂波は見失ってしまったのだ。