「良かったな! 昔話に花を咲かせられたか?」
「ええ。子供の頃の話ができて、楽しかったわ」
澄人にもこの機会を物にした方が良いと背を押され、妹に三年ぶりに会いに行こうと決意をしたのだ。
「穂波さんが勇気を出したからだよ。やっぱり努力してる奴は報われんだ。この家でいつも穂波さん、頑張ってっから」
「……」
二つ年も下で自分を慕ってくれる澄人に、穂波は弱音を吐くことなんてできなかった。
澄人は、白洲家の屋敷周りの区域を担当する郵便配達屋だった。両親が早くから他界しており、兄妹を養う為、幼い頃からいくつもの口入れ屋を渡りながら仕事を探し歩いていた。
この屋敷に来て彼から毎日手紙を受け取るうち、次第に話すようになり、仲良くなっていった。千代以外に唯一、心を開いて話せる存在だ。互いに守るべき兄妹が居るという点もあり、特別な仲間意識が芽生えていた。
「あと何年かしたら、俺が穂波さんをこの屋敷から連れ出してやる。妹ともまた暮らせるようにする」