男は口元で人差し指をたてると、穂波を手招いた。周囲を見渡しながら誰にも見られていないことを確認すると、穂波はゆっくりと外に出た。

「澄人……今日はどうしたの? 特に荷物もないようだけど」
「穂波さんに会いたくて来たんだよ。どうだったんだ今日は?」

 精悍な顔つきやはきはきとした話し方といい、明け透けのない性格の男なのだろう。捲った袖口から伸びる腕はこんがり焼けており、太く筋肉質だ。

「妹には会えたのか?」
「……うん。会えたよ」

 無邪気に笑う澄人に、妹には会えたが自分を恨んでいたことなど伝えられなかった。まして三年前、本当は妹が母を刺したのに、自分のせいにされていることなど……話せるわけがなかった。