「また穂波様、あんな目に」
「くすくす」

 侍女たちも見ているだけで、穂波を助けようとしない。蓮華の取り巻きがほとんどだ。

 本当は侍女にやらせれば良い仕事を、蓮華は穂波に押しつけていた。残っている仕事というのも、蓮華や侍女たちが遊んでいるからこそ溜まっていっているものだ。

「穂波様!」
「千代」

 その中でも唯一、穂波を慕う侍女が居た。栗色の短い髪に、白い頭巾をかぶった侍女……千代は、穂波に手拭いをかけると、こちらへと彼女の手を引いて歩いた。

 穂波と年端の近い千代は、侍女の中でも一番できが悪いとされていた。穂波が白洲家の養女になった際、蓮華が嫌がらせとして千代を付き人にした。

 しかし蓮華の目論見とは裏腹に、歳が同じだった穂波と千代は意気投合し、主従関係以上の絆で結ばれていった。