「やめなさい、蓮華」
「母様」
真っ白な髪をかんざしでまとめた、枯れ木のように細い老婆……冬緒と蓮華の母である、白洲君枝が間に入ってきた。
君枝が穂波と蓮華の間に入るのも、屋敷内では見慣れた光景となっているが、君枝は何も穂波を思って仲裁に入っているわけではなかった。
「傷でも残ったらどうする。嫁に行かせられなくなるだろう。容姿だけはそれなりに整ってんだ」
穂波を良い家に嫁がせる。君枝も白洲家の繁栄の一つの駒としか、彼女を見ていなかった。この家には、穂波の存在を認めてくれる家族は誰も居ない。
だからこそ、日に日に本当の妹に会いたい気持ちも強くなっていた。しかし……そんな希望も今日断たれた。
「はいはい、お母様はいつもそればっかり。掃除しておいて。他にも家の仕事、たくさん残ってるから」
「……はい」
穂波に水をかけたバケツを投げつけると、蓮華は風呂に入るわと、家の奥へ行ってしまった。しばらく濡れたままで居ろと言いたいらしい。