「どこほっつき歩いてたのよ!」
いつも派手な、紫や桃色の着物をまとい、色のきつい紅を唇に塗っている、いかにも気が強そうな女性……白洲蓮華は、穂波のこの家での姉にあたる。
白洲家で暮らすようになってからの三年間、穂波が彼女に優しくされたことなど一度としてない。
「気分が悪かったので、気を紛らわしに外の空気を吸いに出ておりました」
本当は、隣市にある本家・藤堂家へのつかいを任されていた侍女に、無理に頼んで代わってもらった。いつもは蓮華たちの監視が強く、屋敷からはろくに出してもらえない。藤堂家に赴くことなんてとてもできなかった。
だが今日は運良く穂波を残し、他の白洲家の人間たちが出払っていたのだ。
穂波はどうしても妹に……都姫に会いたかった。次女といっても、白洲家の兄や姉とは血の繋がりはない。
血の繋がりがある家族は先刻、彼女への恨みつらみを述べた妹の藤堂都姫と、生き別れの母親だけだった。
三年前のある事件のせいで、藤堂家へと引き取られ、会えなくなってしまった彼女に一目でも見たかったのだ。
「あたしたちが許可した時以外、外に出るなって何度も言ってきたわよね? 勝手なことするんじゃないよ!」
蓮華に髪を掴まれ、勢いよく引き寄せられる。
「……」
蓮華の兄である冬緒が、無関心そうにこちらの様子を見ている。
蓮華とは違い、厳格で地味な服装を好む冬緒は、穂波に危害こそくわえないが、さも自分には関係がないと言わんばかりにいつも傍観を決め込んでいた。
同じ家で三年は暮らしているが、穂波が彼と会話をかわした回数は数えられるほどしかない。
蓮華の振り上げられたもう片方の手が、自分を叩こうとしているんだと気付き、穂波は思わず目を瞑った。